今週の腫瘍内科
【NEW】今週の腫瘍内科(10/12-18)
更新日:2026/10/20
今週の腫瘍内科(2026年10月第3週/10月12日〜10月18日)
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科
腫瘍内科に関心のある医学生・研修医の方へ。当科の一週間と、がん薬物療法をめぐる動きを毎週お伝えします。
今週は、10月14日に保険で使えるようになった乳がんの飲み薬と、8月に承認された膀胱がんの膀胱内治療薬を、根拠となった論文とあわせて紹介します。比較試験と単群試験という、根拠の形の違いにも注目してください。
──────────────────────────────
■ 今週の当科から
・抗がん薬の治療計画(レジメン)の事前審査
院内で新しく使う抗がん薬の治療計画(レジメン)を委員会の前に確かめる事前審査に、当科も参加しました。
学びどころ:抗がん薬は、薬の量・投与日・休薬期間・吐き気止めなどの支持療法までを一つにまとめた「レジメン」という単位で管理されます。新しい薬が保険で使えるようになったあとも、院内で審査を経た計画どおりに投与することが、安全ながん薬物療法の土台になっています。
・エキスパートパネルと、泌尿器がんのゲノム診療の講演
がん遺伝子パネル検査の結果を検討するエキスパートパネルが、他施設と合同のオンラインで開かれました。今回は本番の前に、泌尿器がんのゲノム診療をテーマにした講演も行われました。
学びどころ:当科は消化器がんの診療が多いのですが、パネル検査では臓器を問わず、遺伝子の変化を手がかりに治療を考えます。ほかの領域の専門家の話を聞くことは、がん種を越えて考える力につながります。
・消化器がんの化学療法カンファレンス(外科との合同)
消化管外科、続いて肝胆膵外科の医師と、手術の前後に行う薬物療法や、手術が難しい場合の治療方針を相談するカンファレンスを開きました。
学びどころ:外科と腫瘍内科が同じ患者さんの治療を前後でつなぐ場面は少なくありません。手術と薬物療法を一続きの治療として考える視点を学べます。
※ 個々の患者さん・症例に関する情報は含みません。当科の活動を一般化してご紹介しています。
──────────────────────────────
■ 今週の腫瘍内科ニュース
・ESR1 遺伝子変異のある乳がんの飲み薬、イムルネストラントが保険適用に〔保険適用(薬価収載 2026年10月14日)〕
10月14日、イムルリオ錠200mg(イムルネストラント、日本イーライリリー)が薬価基準に収載されました。対象は「内分泌療法後に増悪した ESR1 遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつ HER2 陰性の手術不能又は再発乳癌」で、薬事承認は2025年12月22日です。1日1回400mgを空腹時に飲む薬で、単剤で使います。
ホルモン受容体陽性の乳がんでは、ホルモン療法(内分泌療法)を続けるうちに、エストロゲン受容体の遺伝子(ESR1)に変異が生じ、薬が効きにくくなることがあります。イムルネストラントは、エストロゲン受容体に結合してその働きを妨げ、受容体そのものを分解へ導く薬(経口の選択的エストロゲン受容体分解薬、SERD)です。根拠となった第Ⅲ相の EMBER-3 試験は「今週の一報」で紹介します。
なお、米国では2026年9月18日に、ESR1 変異のある場合のアベマシクリブとの併用も承認されています(国内は単剤のみ)。
学びどころ:第3号で紹介したカミゼストラントと同じく、ESR1 変異を手がかりに選ぶ治療です。どの患者さんに効くのかを遺伝子の変化で見極める考え方が、ホルモン療法の領域にも広がっています。
出典:厚生労働省「薬価基準収載品目リスト(令和8年10月14日適用)内用薬」 / 日本イーライリリー株式会社 プレスリリース「イムルリオ錠200mg 製造販売承認を取得」(2025年12月22日) / U.S. Food and Drug Administration「FDA approves imlunestrant in combination with abemaciclib for ER-positive, HER2-negative, ESR1-mutated advanced or metastatic breast cancer」(2026年9月18日)
・BCG が効かなくなった膀胱上皮内がんに、膀胱の中に置く抗がん薬 ― イネレクスゾ〔薬事承認 2026年8月24日/作成時点で薬価未収載〕
第10号で承認の一覧の中で紹介した薬を、今週は根拠の論文とあわせて取り上げます。イネレクスゾ膀胱内システム225mg(ゲムシタビン、ヤンセンファーマ)は、「BCG 膀胱内注入療法後に残存・再発した上皮内癌を有する高リスク筋層非浸潤性膀胱癌」を対象に承認されました。BCG は結核ワクチンの菌株を膀胱の中に注入する治療で、筋層に及んでいない高リスクの膀胱がんで広く使われています。
抗がん薬を液体のまま膀胱に注入する方法では、薬は排尿とともに出ていきます。イネレクスゾは、小さな器具を膀胱の中に留置し、ゲムシタビンを約3週間かけて少しずつ放出させる製剤です。承認は国際共同第Ⅱb相 SunRISe-1 試験のコホート2の結果に基づいています。結果は「今週の一報」で紹介します。
学びどころ:BCG が効かなくなったあとの標準は、膀胱を全部取る手術(膀胱全摘)です。手術を望まない、または受けられない方にとって、膀胱を残す治療の選択肢が少しずつ増えています。ただしこうした治療では、効果がなくなったときに手術の機会を逃さないよう、慎重な経過観察が欠かせません。
出典:ジョンソン・エンド・ジョンソン(ヤンセンファーマ株式会社)プレスリリース「イネレクスゾ、製造販売承認を取得」(2026年8月24日)
・続報:ヒアニュオ錠(セバベルチニブ、第5号・第10号で紹介)が10月14日に薬価収載されました。
出典:厚生労働省「薬価基準収載品目リスト(令和8年10月14日適用)内用薬」
・ゾメタ点滴静注(ゾレドロン酸、先発品)の販売中止が案内されました〔販売中止の案内〕。出荷は2027年4月以降、在庫がなくなり次第終了の予定です。同じ成分の後発品があり、骨転移の治療は引き続き行えます。
出典:ノバルティス ファーマ株式会社「ゾメタ点滴静注 4mg/5mL およびゾメタ点滴静注 4mg/100mL 販売中止のご案内」(2026年10月作成)
──────────────────────────────
■ 今週の一報(注目論文)〔乳がん/膀胱がん ― 今週の新薬の根拠〕
① イムルネストラント単剤またはアベマシクリブ併用による進行乳がんの治療(EMBER-3 試験)
N Engl J Med. 2025;392(12):1189–1202./第Ⅲ相・非盲検ランダム化比較試験(NCT04975308)
・アロマターゼ阻害薬(CDK4/6 阻害薬との併用を含む)の治療中・治療後に進行した、ER 陽性・HER2 陰性の進行乳がん874例が対象です。イムルネストラント単剤331例、標準的なホルモン療法(フルベストラントまたはエキセメスタン)330例、イムルネストラントとアベマシクリブの併用213例に割り付けました。主要評価項目は担当医判定の無増悪生存期間です〔論文報告値〕。
・ESR1 変異のある256例では、無増悪生存期間の中央値はイムルネストラント5.5か月、標準療法3.8か月で、イムルネストラントで有意に長くなりました〔論文報告値〕。
・一方、全体の集団では5.6か月 対 5.5か月(ハザード比 0.87、95%CI 0.72〜1.04、P=0.12)で、有意な差はありませんでした。併用とイムルネストラント単剤の比較(426例)では、9.4か月 対 5.5か月(ハザード比 0.57、95%CI 0.44〜0.73、P<0.001)でした〔論文報告値〕。
・Grade 3以上の有害事象は、イムルネストラント17.1%、標準療法20.7%、併用48.6%でした〔論文報告値〕。
臨床的意義:単剤で標準療法を上回ったのは ESR1 変異のある集団で、全体の集団では差がありませんでした。遺伝子の変化で対象を選ぶ根拠になった試験で、国内の承認もこの範囲です。
出典(PubMed 収載/PMID: 39660834):DOI: 10.1056/NEJMoa2410858(Jhaveri KL, et al. N Engl J Med 2025;392(12):1189-1202)
② BCG 不応性の高リスク筋層非浸潤性膀胱がんに対する TAR-200(イネレクスゾ)― 第Ⅱb相 SunRISe-1 試験
J Clin Oncol. 2025;43(33):3578–3588./第Ⅱb相・非盲検・並行コホート試験(NCT04640623)
・BCG 不応性で、膀胱全摘を受けられない、または希望しない高リスクの方を対象に、4つのコホートで検討した試験です。国内承認の根拠となったコホート2は、上皮内がん(乳頭状病変の有無を問わない)に TAR-200 を単独で使った85例で、TAR-200 は24か月まで投与しました〔論文報告値〕。
・コホート2の完全奏効率は82.4%(95%CI 72.6〜89.8)、奏効期間の中央値は25.8か月(95%CI 8.3〜推定不能)でした〔論文報告値〕。
・コホート2で治療に関連する Grade 3以上の有害事象は12.9%、重篤なものは5.9%で、治療に関連する死亡はありませんでした〔論文報告値〕。
臨床的意義:比較対照のない単群の試験で、高い完全奏効率と持続する効果が示されました。比べる相手がいないため、ほかの治療との優劣はこの試験からは判断できず、長期の結果も今後の課題です。
出典(PubMed 収載/PMID: 40737582):DOI: 10.1200/JCO-25-01651 (Daneshmand S, et al. J Clin Oncol 2025;43(33):3578-3588)
──────────────────────────────
■ 学会・セミナー/行事
12/4(金)日本遺伝子診療学会 公開シンポジウム2026「ゲノム医療の次なるステージ」(ハイブリッド・学生は参加費無料)
遺伝子診断・検査技術の推進を目的としたフォーラムの公開シンポジウムです。会場参加に加えて当日のライブ配信と後日のオンデマンド配信があり、学生は参加登録をすれば無料で参加できます。プログラムは学会のサイトで確認できます。
・日時:2026年12月4日(金)9:50〜17:20
・会場:コングレスクエア日本橋(会場参加)+当日ライブ配信+後日オンデマンド配信(2026年12月11日〜2027年1月12日)
・参加費:学生 無料(要参加登録)
・主催:日本遺伝子診療学会 遺伝子診断・検査技術推進フォーラム実行委員会
・プログラム:https://www.google.com/url?q=http://www.gene-dt.jp/forum.html&source=gmail&ust=1792531101884000&sa=E
・参加登録:https://www.google.com/url?q=https://www.gakkai-web.net/p/mp/jsgdt/new2.php&source=gmail&ust=1792531101884000&sa=E
学びどころ:検査の技術からゲノム医療のこれからまでを幅広く聞ける機会で、オンデマンド配信もあるため、実習や研修の合間にも視聴できます。
11/4(水)令和8年度 第1回 群馬県がん診療連携協議会研修会「すべての医療者が知っておきたいアピアランスケア」(ハイブリッド・申込不要/前号から継続)
がん治療に伴う脱毛や皮膚・爪の変化など、外見の変化への支援(アピアランスケア)を、この分野の第一人者から学べる研修会です。医学生の参加可否も含め、オンライン参加の方法は腫瘍内科までお問い合わせください。
・演題:治療とともに「その人らしさ」を支える 〜すべての医療者が知っておきたいアピアランスケア〜
・演者:藤間 勝子 先生(国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター長)
・開会挨拶:高張 大亮 教授(群馬大学 腫瘍内科学分野/腫瘍センター長)
・日時:2026年11月4日(水)18:00〜19:00
・会場:群馬大学医学部 臨床大学院講堂(会場参加)+オンライン(Zoom)のハイブリッド開催
・対象:職種・専門を問わずすべての医療従事者(特にがん医療に従事する医師)。申込不要
・主催:群馬県がん診療連携協議会
11/21(土)中国・四国地区セミナー、11/22(日)Best of ESMO 2026(前号から継続)
引き続き申込みを受け付けています。中国・四国地区セミナーはハイブリッド開催・参加費無料・会員資格不問(研修医の参加も歓迎、登録締切は11月16日)、Best of ESMO 2026 は今年から学生・初期研修医が無料で参加できます(申込時に学生証などのアップロードが必要)。
・中国・四国地区セミナー 参加登録:https://www.google.com/url?q=https://forms.gle/9gQiBqVmjwhmqHci7&source=gmail&ust=1792531101884000&sa=E
・Best of ESMO 2026 申込:https://www.google.com/url?q=https://medicalprime.jp/event/boe2026/&source=gmail&ust=1792531101884000&sa=E
当科の見学・実習・進路相談は随時受け付けています
外来やカンファレンスの見学、短期の実習など、希望に応じて日程を調整します。学年や所属は問いません。お問い合わせは腫瘍内科まで。
──────────────────────────────
■ ひとことコラム ― 承認の根拠には、いくつかの形がある
新しい薬が承認されるとき、その根拠はいつも同じ形とは限りません。今週取り上げた2つの薬は、違う形の根拠を持っています。
一つ目は、比べる相手のいるランダム化比較試験です。EMBER-3 では、イムルネストラントと従来のホルモン療法をくじ引きで割り付けて比べました。比べる相手がいるため、「どれだけ上乗せがあるか」を示すことができます。さらに、ESR1 変異のある方とない方で結果が分かれたことから、効く人を見極める手がかりも得られました。
二つ目は、比べる相手のいない単群試験です。SunRISe-1 は、BCG が効かなくなった膀胱がんという、ほかに確立した選択肢が少ない状況で行われました。こうした場面では、完全奏効率や効果の続く期間をもとに承認されることがあります。ただし、ほかの治療と比べてどうかはこの試験だけでは分かりません。
論文や添付文書を読むときは、「何と比べて、どの患者さんで、何が示されたのか」を確かめてみてください。同じ「承認された薬」でも、根拠の形を知ると、目の前の患者さんにどこまであてはめられるかが見えてきます。
──────────────────────────────
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科/2026-10-20 作成
※ 掲載内容・出典は作成時点の情報に基づきます。


