今週の腫瘍内科
【NEW】今週の腫瘍内科(10/5-10/11)
更新日:2026/10/14
今週の腫瘍内科(2026年10月第2週/10月5日〜10月11日)
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科
腫瘍内科に関心のある医学生・研修医の方へ。当科の一週間と、がん薬物療法をめぐる動きを毎週お伝えします。
今週は、10月7日に米国で承認された HER2 陽性乳がんの「維持療法」を取り上げます。同じ HER2 を狙う薬でも、抗体と飲み薬では働く場所が違います。その違いと、治療を「続ける」段階の考え方を一緒に見ていきましょう。
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■ 今週の当科から
・エキスパートパネルの下読み会(他施設との合同開催)
がん遺伝子パネル検査の結果を検討するエキスパートパネルに向けて、前の週に行う下読み会が開かれ、当科も症例を担当して参加しました。下読み会はオンラインで他施設と合同で行っており、それぞれの施設の症例を、腫瘍内科・病理・遺伝などの立場から事前に確かめます。
学びどころ:同じ遺伝子の変化でも、がんの種類や治療歴によって解釈が変わることを、他施設の症例も含めた多くの例から学べます。
・医師主導治験のスタートアップミーティング
当院が参加する消化器がんの医師主導治験について、治験を始める前の打ち合わせ(スタートアップミーティング)が開かれ、当科の医師が参加しました。外科の医師、臨床研究コーディネーター(CRC)、治験の支援機関の担当者が集まり、手順や役割分担を確認します。
学びどころ:治験は、製薬企業だけでなく医師自らが計画して行うこともあります(医師主導治験)。新しい治療が標準になるまでには、こうした多職種による地道な準備の積み重ねがあります。
・医学科の臨床実習の受け入れ準備
10月下旬から始まる医学科の臨床実習(内科系のローテーション)に向けて、当科での受け入れの準備を進めました。この実習では今年度から、評価や指導医からのフィードバックをオンラインのシステムで記録します。
学びどころ:実習中の振り返りがその都度記録に残ることで、学生にとっても、何ができて何が課題なのかを確かめやすくなります。当科の実習では、外来・病棟・カンファレンスを通して、がん薬物療法の実際に触れていただきます。
※ 個々の患者さん・症例に関する情報は含みません。当科の活動を一般化してご紹介しています。
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■ 今週の腫瘍内科ニュース
※ 対象週(10月5日〜10月11日)に、国内で腫瘍領域の新たな薬事承認・薬価収載はありませんでした(PMDA の承認品目一覧で確認できた直近の承認日は9月16日)。今週は米国での承認を取り上げます。
・HER2 陽性乳がんの維持療法に、ツカチニブの追加 ― 米国で承認〔米国FDA承認/日本は承認申請中〕
2026年10月7日、米国食品医薬品局(FDA)は、ツカチニブ(米国販売名 Tukysa)をトラスツズマブ・ペルツズマブと併用する治療を承認しました。対象は、切除できない局所進行または転移性の HER2 陽性乳がんの成人で、最初の治療(導入療法)を終えたあとの「維持療法」として使います。
根拠となったのは、プラセボと比べた第Ⅲ相の HER2CLIMB-05 試験で、詳しくは「今週の一報」で紹介します。米国添付文書では、肝障害が枠囲み警告(添付文書で最も重い注意喚起)とされ、下痢などにも注意が促されています。
日本では、ツカチニブ(販売名 ツカイザ)は2026年2月19日に、化学療法歴のある HER2 陽性の手術不能又は再発乳癌(トラスツズマブ・カペシタビンとの併用)で承認されています。今回の維持療法と、HER2 陽性の胆道がんへの適応拡大は、ファイザーが2026年3月19日に国内で申請しました。作成時点で、いずれも国内承認の公表は確認できていません。
学びどころ:HER2 は乳がんだけでなく、胃がんや胆道がんなど消化器がんの一部でも治療の標的になっています。一つの標的をめぐる薬が、がん種を越えて広がっていく流れは、腫瘍内科の診療の特徴の一つです。
出典:U.S. Food and Drug Administration「FDA approves tucatinib with trastuzumab and pertuzumab for maintenance treatment of HER2-positive breast cancer」(2026年10月7日) / ファイザー株式会社 プレスリリース「ツカイザ、乳がん1次治療後維持療法および胆道がんに関する製造販売承認を申請」(2026年4月8日) / ファイザー株式会社 プレスリリース(2026年2月19日・国内承認)
・続報:dMMR の結腸がん術後補助療法にアテゾリズマブ ― 米国で承認〔米国FDA承認/日本は承認申請中〕
8月の号(2026-08-17号)で国内申請と ATOMIC 試験を紹介した治療が、10月8日に米国で承認されました。対象はミスマッチ修復機能欠損(dMMR)のステージⅢ結腸がんです。手術のあと、抗がん薬の組み合わせ(mFOLFOX6)にアテゾリズマブを併用し、その後アテゾリズマブ単剤を6か月続けます。2歳以上の小児も対象で、皮下注製剤も併せて承認されました。国内では2026年8月14日に中外製薬が申請しており、作成時点で承認の公表は確認できていません。
学びどころ:同じ試験の結果をもとに、各国で申請・承認が順に進みます。国内の承認がいつになるか、続けて見ていきます。
出典:U.S. Food and Drug Administration「FDA approves atezolizumab in combination with chemotherapy for Stage III mismatch repair deficient colon cancer」(2026年10月8日)
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■ 今週の一報(注目論文)〔乳がん/HER2〕
HER2 陽性転移乳がんの一次治療後の維持療法に、ツカチニブを加える第Ⅲ相試験(HER2CLIMB-05)
J Clin Oncol. 2026;44(17):1597–1607./第Ⅲ相・二重盲検・プラセボ対照ランダム化比較試験(NCT05132582)
・導入療法のあとに進行のなかった HER2 陽性の転移乳がん654例を、トラスツズマブ・ペルツズマブにツカチニブ300mg 1日2回を加える群(326例)と、プラセボを加える群(328例)に1:1で割り付けました。年齢中央値は54歳、初診時から転移のあった方が69.3%、ホルモン受容体陽性が52.6%、脳転移がある、またはその既往がある方が12.4%でした(組み入れは症状のない脳転移に限る)〔論文報告値〕。主要評価項目は、担当医判定の無増悪生存期間です。著者には、昭和医科大学と九州がんセンターの研究者も含まれています。
・無増悪生存期間の中央値は24.9か月 対 16.3か月(ハザード比 0.641、95%CI 0.514〜0.799、p<0.0001)で、ツカチニブ群で有意に延長しました。脳転移の有無やホルモン受容体の状態にかかわらず、同じ方向の効果がみられています〔論文報告値〕。
・全生存期間は、この解析の時点ではまだ評価できる段階に達していません〔論文報告値〕。
・ツカチニブ群で多かった有害事象は、下痢72.7%(Grade 3以上 6.1%)、吐き気33.1%(同0.9%)、肝機能検査値(ALT)の上昇28.2%(同13.5%)でした。有害事象によりツカチニブを中止した方は13.5%でした〔論文報告値〕。
臨床的意義:維持療法に薬を一つ加えることで、進行までの期間が延びることを示した試験です。長く続ける治療のため、下痢や肝機能障害の管理と、全生存期間の結果がこれからの論点です。著者らは、維持療法の「選択肢の一つになりうる(may be an option)」と結論しています。
出典(PubMed 収載/PMID: 41369677):DOI: 10.1200/JCO-25-02600 (Dieras V, et al. J Clin Oncol 2026;44(17):1597-1607)
関連(同じ試験を研究者以外にも読みやすくまとめた要約/PMID: 42762393):DOI: 10.1007/s11523-026-01245-w (Dieras V, et al. Target Oncol 2026;21(5):653-656)
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■ 学会・セミナー/行事
11/4(水)令和8年度 第1回 群馬県がん診療連携協議会研修会「すべての医療者が知っておきたいアピアランスケア」(ハイブリッド・申込不要/前号から継続)
がん治療に伴う脱毛や皮膚・爪の変化など、外見の変化への支援(アピアランスケア)を、この分野の第一人者から学べる研修会です。県内の医療者向けに企画されたもので、職種や専門を問わず受講できます。医学生の参加可否も含め、オンライン参加の方法は腫瘍内科までお問い合わせください。
・演題:治療とともに「その人らしさ」を支える 〜すべての医療者が知っておきたいアピアランスケア〜
・演者:藤間 勝子 先生(国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター長)
・開会挨拶:高張 大亮 教授(群馬大学 腫瘍内科学分野/腫瘍センター長)
・日時:2026年11月4日(水)18:00〜19:00
・会場:群馬大学医学部 臨床大学院講堂(会場参加)+オンライン(Zoom)のハイブリッド開催
・対象:職種・専門を問わずすべての医療従事者(特にがん医療に従事する医師)。申込不要
・主催:群馬県がん診療連携協議会
学びどころ:今週の一報でも、長く続ける治療では副作用との付き合い方が大切だと触れました。外見の変化も、治療を続ける患者さんの生活に深く関わる副作用の一つです。
11/21(土)中国・四国地区セミナー、11/22(日)Best of ESMO 2026(前号から継続)
引き続き申込みを受け付けています。中国・四国地区セミナーはハイブリッド開催・参加費無料・会員資格不問(研修医の参加も歓迎、登録締切は11月16日)、Best of ESMO 2026 は今年から学生・初期研修医が無料で参加できます(申込時に学生証などのアップロードが必要)。
・中国・四国地区セミナー 参加登録:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf109rSVW74JLnIDC06–_xZJrpgOfYEgnY5HvjYmPpg4-LeA/viewform
・Best of ESMO 2026 申込:https://medicalprime.jp/event/boe2026/
学びどころ:欧州の学会で発表されたばかりの試験結果を、国内の専門家の解説つきで聞ける機会です。
当科の見学・実習・進路相談は随時受け付けています
外来やカンファレンスの見学、短期の実習など、希望に応じて日程を調整します。学年や所属は問いません。お問い合わせは腫瘍内科まで。
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■ ひとことコラム ― 同じ HER2 を狙う、抗体と飲み薬
HER2 は、細胞の表面にあって「増えなさい」という信号を細胞の中へ伝える受容体です。HER2 陽性のがんでは、この受容体が細胞の表面に過剰に並び、信号が出続けています。今回の治療に使われる3つの薬は、どれも HER2 を狙っていますが、働く場所が違います。
トラスツズマブとペルツズマブは抗体で、細胞の外に出ている HER2 の部分にくっつきます。2つの抗体は結合する場所が異なり、ペルツズマブは HER2 がほかの受容体と組んで信号を出すのを妨げます。これに対してツカチニブは、小さな分子の飲み薬(チロシンキナーゼ阻害薬)で、細胞の中に入り、信号を伝える HER2 の内側の部分を抑えます。外側と内側の両方から同じ受容体を抑える、という組み合わせです。
分子の大きさの違いは、脳転移との関係でも話題になります。抗体のような大きな分子は脳へ移行しにくく、小さな分子の薬のほうが届きやすい可能性があると考えられています。HER2 陽性乳がんでは脳転移が治療上の課題になることがあります。HER2CLIMB-05 でも、症状のない脳転移がある方を対象に含め、脳などの中枢神経での進行までの期間を副次評価項目の一つにしています。
もう一つの見どころは「維持療法」という考え方です。抗がん薬で病気を落ち着かせたあと、副作用の強い薬は休み、比較的続けやすい薬で落ち着いた状態をできるだけ長く保つ。どの薬をどこまで続けるかは、効果と生活のしやすさの両方を見ながら決めることになります。薬の名前を覚えるだけでなく、「その薬が治療の流れのどの段階で、何を目的に使われるのか」を意識してみてください。
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群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科/2026-10-13 作成
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