現在使用しているテンプレートファイル:single.php
テーマ_PC テーマ_スマホ

今週の腫瘍内科

今週の腫瘍内科

【NEW】今週の腫瘍内科(8/17-23)

更新日:2026/08/26

今週の腫瘍内科(2026年8月第3週/8月17日〜8月23日)
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科

 

腫瘍内科に関心のある医学生・研修医の方へ。当科の一週間の活動と、がん薬物療法をめぐる世の中の動き(論文・学会・制度)を、毎週まとめてお伝えします。

今週はお盆明けで定例のカンファレンスが戻り、週末には医学生の実習前試験もありました。世の中の動きとしては、点滴で使われてきた免疫チェックポイント阻害薬を皮下注射にする、という話題を取り上げます。

 

──────────────────────────────

■ 今週の当科から

 

・がんゲノム医療 エキスパートパネル(本番)
がん遺伝子パネル検査の結果を、複数の診療科・職種で検討する正式な会議です。前の週に行った下読みをもとに、検出された遺伝子変化にどこまで意味づけができるか、対応する薬や臨床試験があるか、実際にその治療に到達できるかを順に確認していきます。他施設とオンラインでつないで行います。
学びどころ:同じ検査結果でも、「治療につながる」と言えるかどうかは条件次第です。その線引きを議論する場に居合わせると、がんゲノム医療が検査の話ではなく診療の話だということが分かります。

 

・消化管・肝胆膵の化学療法カンファレンス
消化器外科と合同で、術前・術後の薬物療法や進行例の治療方針を相談する定例のカンファレンスです。消化管の相談を終えたあと、続けて肝胆膵の相談に移ります。
学びどころ:手術で治せる段階か、薬物療法を先に置くか、という判断は外科と内科の対話のなかで決まります。当科の仕事の多くが、この種の合議の上に成り立っています。

 

・臨床実習前OSCE(本試験)の評価者
医学科の学生が臨床実習に出る前に受ける実技試験(OSCE)に、当科からも評価者として参加しました。医療面接や身体診察を、決められた観点にそって評価します。
学びどころ:評価する側に回ってみると、採点表が「できたかどうか」ではなく「どういう手順を踏んだか」を見ていることが分かります。実習前に身につけるべきことが、そのまま項目になっています。

 

・臨床研修の運営に関する会議
初期臨床研修の年間スケジュールや、他施設からの研修医の受け入れ状況、指導医の養成講習会などを扱う院内の定例会議です。当科も内科ローテーションの受け入れ先として関わっています。
学びどころ:研修プログラムは毎年見直されています。どの科をどう回るかは決められた枠のように見えて、実際には診療科と研修センターの調整で少しずつ形が変わっていきます。

 

※ 個々の患者さん・症例に関する情報は含みません。当科の活動を一般化してご紹介しています。

 

──────────────────────────────

■ 今週の腫瘍内科ニュース

 

・ペムブロリズマブの皮下注製剤「キイジェクト配合皮下注」、薬事審議会 医薬品第二部会で審議〔部会審議(承認前・薬価未収載)〕

2026年8月24日に開かれた薬事審議会 医薬品第二部会で、「キイジェクト配合皮下注395mg」および「同配合皮下注790mg」の製造販売承認の可否が、審議事項として取り上げられました。ペムブロリズマブ(キイトルーダ)は、これまで点滴静注で使われてきた抗PD-1抗体です。今回はその皮下注射用の製剤にあたります。
段階にご注意ください。部会での審議はあくまで承認までの一段階で、この時点では承認も薬価基準への収載もされていません。日本では、企業の申請 → 審査 → 部会 → 製造販売承認 → 薬価基準収載、という順に進み、最後まで至ってはじめて保険診療で使えるようになります。
なお、厚生労働省が公表している議事次第には販売名のみが記載され、成分名の記載はありません。製剤の内容(ペムブロリズマブに、皮下に投与した薬が広がりやすくなる酵素ベラヒアルロニダーゼ アルファを配合したもの)と用量については、下の「今週の一報」で紹介する第Ⅲ相試験の内容と一致しますが、正式な成分名・効能効果は承認時の公表資料でご確認ください。
学びどころ:点滴を皮下注射に置き換えるという開発は、効き目を強くするための工夫ではありません。同じ効果を、短い時間と少ない負担で届けるための工夫です。外来化学療法室の回転や、通院にかかる時間まで含めて治療を考える視点は、腫瘍内科の実務にとても近いところにあります。

出典:厚生労働省「薬事審議会 医薬品第二部会を開催します」(令和8年8月24日開催/議事次第) 

 

・同じ部会で、腫瘍領域の効能追加も複数が扱われました
8月24日の医薬品第二部会では、審議事項としてテビムブラ点滴静注100mgの一部変更承認の可否が、報告事項としてエンハーツ点滴静注用100mg、キイトルーダ点滴静注100mg、ダトロウェイ点滴静注用100mg、テクベイリ皮下注、イブランス錠、エプキンリ皮下注などの一部変更承認が取り上げられています。それぞれどの効能・効果が追加されたかは議事次第には記載がないため、各社の公表を待つ必要があります。
学びどころ:一度の部会でこれだけの品目が動きます。がん薬物療法では、新しい成分の登場よりも、すでにある薬の「使える場面」が広がる変化のほうがはるかに多い。日々の情報の追い方は、そこに合わせておくと無理がありません。
出典:厚生労働省「薬事審議会 医薬品第二部会を開催します」(令和8年8月24日開催/議事次第) 

 

・がん診療連携拠点病院・小児がん拠点病院・がんゲノム医療中核拠点病院の整備指針が改定されました
2026年7月30日付で、厚生労働省健康・生活衛生局長から「がん診療連携拠点病院等の整備について」(健生発0730第1号)が発出され、新しい「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」が示されました。「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」の提言を踏まえたもので、これまで運用されてきた令和4年8月1日付の通知は令和8年7月31日をもって廃止されています。同じ日付で、小児がん拠点病院等・がんゲノム医療中核拠点病院等の整備指針も改定されました。
拠点病院制度は、どこに住んでいても一定の水準のがん医療を受けられるようにするための仕組みで、指定を受けるには診療実績や体制の要件を満たす必要があります。今後は各病院がこの新しい指針に沿って指定の推薦・申請の手続きを進めることになります。
学びどころ:研修先や就職先を考えるとき、その病院が拠点病院かどうかは一つの手がかりになります。指定要件には、キャンサーボードや相談支援センター、緩和ケアチームなど、実際に学べる場の有無が具体的に書かれているためです。指針は公開されているので、一度目を通しておくと病院の見え方が変わります。
出典:厚生労働省「がん診療連携拠点病院等」  / 通知本文(令和8年7月30日 健生発0730第1号) 

 

※ 対象週(8月17日〜23日)のあいだに、腫瘍領域で新たに承認された薬・薬価基準に収載された薬はありませんでした。上記の部会は週明け8月24日の開催で、記事作成時点での最新の動きとしてご紹介しています。

 

──────────────────────────────

■ 今週の一報(注目論文)〔肺がん/免疫療法〕

 

ペムブロリズマブは皮下注射でも点滴と同じだけ体内に届くか ― 第Ⅲ相 3475A-D77 試験
Ann Oncol. 2025;36(7):775–785./第Ⅲ相・非盲検無作為化比較試験(3475A-D77、ClinicalTrials.gov NCT05722015)

 

・ペムブロリズマブは点滴静注で使われてきた抗PD-1抗体です。これに、皮下に注射した薬剤が組織へ広がるのを助ける酵素(ベラヒアルロニダーゼ アルファ)を組み合わせた皮下注製剤について、点滴と同等の体内曝露が得られるかを検証した試験です。
・対象は、EGFR・ALK・ROS1 の感受性遺伝子異常をもたない、未治療のStageⅣ非小細胞肺がんの患者さん。プラチナ併用化学療法を併用したうえで、皮下注 790mg 6週ごと群 251例と、点滴静注 400mg 6週ごと群 126例に2対1で割り付けました(計377例)。主要評価項目は薬の効き目そのものではなく、1サイクル目の曝露量(AUC)と定常状態のトラフ濃度という薬物動態の指標で、非劣性の基準は幾何平均比 0.8 と定められました〔論文報告値〕。
・1サイクル目 AUC の幾何平均比は 1.14(96%信頼区間 1.06–1.22、P<0.0001)、定常状態トラフ濃度の幾何平均比は 1.67(94%信頼区間 1.52–1.84、P<0.0001)で、いずれも非劣性の基準を満たしました。奏効率は皮下注群 45.4%、点滴群 42.1%(奏効率比 1.08、95%信頼区間 0.85–1.37)で、安全性の傾向も両群で一貫していました。抗ペムブロリズマブ抗体が検出されたのは皮下注群 1.4%、点滴群 0.9% でした〔いずれも論文報告値〕。
・皮下注射に要した時間は中央値 2.0 分(範囲 1–12 分)でした〔論文報告値〕。日本からも複数の施設が参加しています。

 

臨床的意義:この試験が測ったのは「よく効くかどうか」ではなく「同じだけ届くかどうか」です。すでに効果が確立している薬を、別の投与経路で同等に届けられると示せれば、効果の検証をやり直さずに使い方を変えられる。開発の考え方として、覚えておく価値のある設計だと思います。上のニュースで紹介した皮下注製剤の審議は、この流れの先にあるものです。

 

出典(PubMed 収載/PMID: 40157574):DOI: 10.1016/j.annonc.2025.03.012  (Felip E, et al. Ann Oncol 2025)
用量設定の裏づけとなったモデル解析:DOI: 10.1016/j.ejca.2025.115711  (Song G, et al. Eur J Cancer 2025;230:115711/PMID: 41047324)

 

──────────────────────────────

■ 学会・セミナー/行事

 

9/9(水)令和8年度「医学生・研修医等をサポートするための会」
医学生・研修医等を対象に、将来のキャリア形成や地域医療への理解を深めることを目的として開かれる会です(前号からの継続掲載)。
・日時:2026年9月9日(水)13:30–14:50
・会場:群馬大学昭和キャンパス 医学科 臨床大講堂
・主催:群馬大学医学部附属病院 地域医療研究・教育センター(昭和地区事務部 総務課 地域医療支援係)
学びどころ:群馬で働くという進路を、制度や支援の話とあわせて具体的に考えられる機会です。

 

10/10(土)第14回 日本臨床腫瘍学会 近畿地区セミナー
がんゲノムプロファイリング(CGP)検査と微小残存病変(MRD)、および専門医機構認定のがん薬物療法専門医制度を取り上げるセミナーです。会場とWEB配信のハイブリッド開催で、学会の会員でなくても参加でき、参加費は無料。案内文には研修医の参加も歓迎する旨が記されています。
・日時:2026年10月10日(土)14:00–16:30
・会場:大阪市立総合医療センター 都島センタービル1階 大会議室A(会場定員100名)+ WEB配信のハイブリッド
・対象:がん薬物療法専門医、専門医を目指す医師、看護師・薬剤師などの医療従事者(JSMO会員資格は不問・参加費無料)
・主催:公益社団法人 日本臨床腫瘍学会(事前の参加登録が必要)
・案内:プログラム
学びどころ:CGP検査とMRDは、これから数年でいちばん動く分野の一つです。オンラインで無料で聴ける機会は多くないので、関心があれば早めの登録をおすすめします。

 

当科の見学・実習・進路相談は随時受け付けています
外来やカンファレンスの見学、短期の実習など、希望に応じて日程を調整します。学年や所属は問いません。お問い合わせは腫瘍内科まで。
学びどころ:この記事で紹介しているカンファレンスや検討会は、実際に見に来ていただけます。

 

──────────────────────────────

■ ひとことコラム ― 点滴を皮下注射にする、という工夫

 

抗体医薬は分子が大きく、これまでは点滴静注が基本でした。1回に30分から1時間、薬によってはそれ以上、ベッドに横になって過ごすことになります。外来化学療法室の椅子の数は限られていますから、投与時間はそのまま「その日に何人診られるか」に効いてきます。

では、なぜ皮下注射が難しかったのか。皮下組織にはヒアルロン酸を含む間質があり、まとまった量の液体を一度に入れると広がりにくく、痛みや腫れの原因になります。そこで使われるのが、ヒアルロン酸を一時的に分解する酵素(ヒアルロニダーゼ)です。抗体と一緒に投与することで、数mLの薬液が皮下に速やかに広がり、数分の注射で済むようになります。今回話題にした製剤に配合されているベラヒアルロニダーゼ アルファも、この役割を担っています。同じ考え方は、すでにトラスツズマブやリツキシマブ、ダラツムマブなどの皮下注製剤でも使われています。

臨床試験の組み立て方にも特徴があります。効果そのものは点滴の時代にすでに確立していますから、あらためて生存期間で比べ直すのではなく、「体内に届く量(薬物動態)が点滴に劣らない」ことを主要評価項目に置く。これを薬物動態ブリッジングと呼びます。今週の一報で紹介した試験が、まさにその形をとっています。

腫瘍内科というと、新しい薬をどう選ぶかという話に目が向きがちです。ただ実際の現場では、同じ薬をどう届けるか――治療にかかる時間、通院の負担、点滴ルートの確保、外来の枠――が、患者さんの生活を左右します。こうした地味に見える工夫にこそ、この領域の仕事の幅が表れていると思います。

 

──────────────────────────────
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科/2026-08-26 作成
※ 掲載内容・出典は作成時点の情報に基づきます。

« 前へ

前のページに戻る

ページトップへ