今週の腫瘍内科
今週の腫瘍内科(8/10-8/16)
更新日:2026/08/18
今週の腫瘍内科(2026年8月第2週/8月10日〜8月16日)
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科
腫瘍内科に関心のある医学生・研修医の方へ。当科の一週間の活動と、がん薬物療法をめぐる世の中の動き(論文・学会・制度)を、毎週まとめてお伝えします。
今週はお盆の週で、定例のカンファレンスの多くは休みでした。そのぶん、大腸がんの「ミスマッチ修復」という話題を少し丁寧に見ていきます。
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■ 今週の当科から
・お盆期間の診療体制
今週は多くの定例カンファレンスが休みでした。一方で、外来と点滴治療は暦どおりに続きます。抗がん剤には投与間隔が決まっているものが多く、休みだからといって後ろにずらせるとは限らないためです。
学びどころ:がん薬物療法には「予定どおりに続ける」こと自体が治療の一部という側面があります。連休の谷間をどう組むかは、外来運営の腕の見せどころでもあります。
・がんゲノム医療 エキスパートパネルの下読み
がん遺伝子パネル検査の結果を、正式な検討会(エキスパートパネル)にかける前に読み込む会です。他施設とオンラインでつなぎ、病理・ゲノムの読み方と治療の方針を分けて検討します。
学びどころ:検査結果がそのまま治療につながるわけではありません。変異の意味づけ、使える薬の有無、臨床試験への到達可能性を一つずつ確かめる作業を、実際の場で見ることができます。
・診療ガイドライン作成のためのシステマティックレビュー研修会
学会のガイドライン作成委員会が主催するオンライン研修に、当科からも参加しました。文献をどう検索し、どう選び、どう評価してまとめるかという、システマティックレビューの手順についての講義です。
学びどころ:ガイドラインは誰かの意見の集まりではなく、決まった手順で作られる成果物です。その手順を知っておくと、推奨の強さの読み方が変わります。
・医学科4年生の臨床実習プログラムの年次更新
来年度に向けて、内科各科の実習内容を見直す作業が進んでいます。何を見てもらい、何をやってもらうかを科ごとに書き出していきます。
学びどころ:実習の中身は毎年見直されています。「もっとこうしてほしい」という声は、実際に翌年の形に反映されます。
・今年度の院内医療安全週間のテーマは、がん薬物療法
当院の医療安全週間(2026年9月14日〜18日)のテーマが「チームで支えるがん薬物療法の安全」に決まり、院内でポスター・標語の募集が行われています。
学びどころ:抗がん剤の投与は、医師・薬剤師・看護師のいずれか一人でも確認を欠くと事故になり得ます。病院全体のテーマに選ばれること自体が、この領域の性格を表しています。
※ 個々の患者さん・症例に関する情報は含みません。当科の活動を一般化してご紹介しています。
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■ 今週の腫瘍内科ニュース
・テセントリク(アテゾリズマブ)、MSI-High の結腸がんの術後補助療法として国内で適応拡大を申請〔承認申請〕
2026年8月14日、中外製薬が、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸がんに対する術後補助療法について、成人および小児を対象とする適応拡大の承認申請を厚生労働省に行ったと発表しました。根拠となったのは、海外で行われた第Ⅲ相医師主導治験 ATOMIC 試験(Alliance A021502)です。試験の内容と成績は下の「今週の一報」で紹介します。
段階にご注意ください。これは承認申請であって、承認でも保険適用でもありません。日本では、企業が申請し、審査を経て承認され、その後に薬価基準へ収載されて、はじめて保険診療で使えるようになります。現時点でこの使い方はできません。
学びどころ:大腸がんの術後補助化学療法は、長く mFOLFOX6 などの化学療法が中心でした。そこに、遺伝子の状態(dMMR/MSI-High)で選んだ患者さんに限って免疫療法を足すという設計が入ってきます。消化器がん・免疫療法・がんゲノムが一つにつながる話題です。
出典:中外製薬 ニュースリリース(2026年8月14日)「テセントリク、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸がんに対する術後補助療法として適応拡大申請」
・ジパレルチニブ、EGFR エクソン20挿入変異の非小細胞肺がん一次治療で第Ⅲ相試験の主要評価項目を達成〔試験結果(国内未承認)〕
2026年8月13日、大鵬薬品工業が、前治療歴のない EGFR エクソン20挿入変異を伴う非小細胞肺がんを対象とした国際共同第Ⅲ相試験(REZILIENT3 試験)について、あらかじめ計画されていた中間解析で、主要評価項目である無増悪生存期間を達成したと発表しました。ジパレルチニブとプラチナ製剤を含む化学療法の併用を、一次治療として検証したものです。
学びどころ:EGFR 遺伝子変異と一口に言っても、エクソン19欠失や L858R とエクソン20挿入変異とでは、効く薬が違います。「同じ遺伝子」で束ねずに変異の場所まで見る習慣がつくと、肺がん治療の地図が読めるようになります。
出典:大鵬薬品工業 ニュースリリース(2026年8月13日)「ジパレルチニブと化学療法併用群が、EGFRエクソン20挿入変異を伴う非小細胞肺がん一次治療における第III相REZILIENT3試験の中間解析で、主要評価項目である無増悪生存期間を達成」
※今週は、腫瘍領域で新たに承認された薬・薬価基準に収載された薬はありませんでした。
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■ 今週の一報(注目論文)〔大腸がん/免疫療法〕
ミスマッチ修復機能が欠けた StageⅢ 結腸がんに、術後の化学療法へ免疫療法を足す ― ATOMIC 試験
N Engl J Med. 2026;394(12):1155–1166./第Ⅲ相・無作為化比較試験(ATOMIC、Alliance A021502、ClinicalTrials.gov NCT02912559)
・StageⅢ 結腸がんの術後補助療法は、フルオロピリミジンとオキサリプラチンの併用(mFOLFOX6 など)が標準です。ここに抗 PD-L1 抗体アテゾリズマブを加えることで、ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の患者さんの成績が良くなるかは分かっていませんでした。
・切除後の StageⅢ dMMR 結腸がんの患者さんを1対1で無作為に割り付け、アテゾリズマブ+mFOLFOX6 を6か月(その後アテゾリズマブ単剤を継続し計12か月)行う群 355例と、mFOLFOX6 単独6か月の群 357例を比較しました。主要評価項目は無病生存期間です。年齢中央値は64歳、女性 55.1%、T4 または N2(あるいはその両方)の高リスク例が 53.9% でした〔論文報告値〕。
・観察期間中央値 40.9 か月の時点で、3年無病生存率はアテゾリズマブ併用群 86.3%(95%信頼区間 81.8–89.8)、mFOLFOX6 単独群 76.2%(同 70.9–80.6)。再発または死亡のハザード比は 0.50(95%信頼区間 0.35–0.73)、P<0.001 でした。一方で Grade 3 または 4 の有害事象は 84.1% と 71.9% で、併用群のほうが多く報告されています〔いずれも論文報告値〕。
・なお、この試験の公表データから患者ごとの生存データを再構成した探索的な解析では、ミスマッチ修復機能が保たれた(pMMR)と推定される集団でも同じ方向の結果が示唆されています。ただしあくまで探索的な検討であり、前向きの検証が必要とされています〔J Immunother Cancer. 2026;14(1)〕。
臨床的意義:術後補助療法は「再発するかどうか分からない人にも、再発を減らすために治療を行う」という難しさをもつ領域です。有効性が示された一方で Grade 3–4 の有害事象は増えており、誰に勧めるかという議論はここから始まります。上のニュースで紹介した国内の適応拡大申請は、この試験の結果に基づくものです。
出典(PubMed 収載/PMID: 41880612):DOI: 10.1056/NEJMoa2507874(Sinicrope FA, et al. N Engl J Med 2026)
補足の探索的解析:DOI: 10.1136/jitc-2025-013791(Chen YT, et al. J Immunother Cancer 2026/PMID: 41571295)
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■ 学会・セミナー/行事
9/9(水)令和8年度「医学生・研修医等をサポートするための会」
医学生・研修医等を対象に、将来のキャリア形成や地域医療への理解を深めることを目的として開かれる会です(前号からの継続掲載)。
・日時:2026年9月9日(水)13:30–14:50
・会場:群馬大学昭和キャンパス 医学科 臨床大講堂
・主催:群馬大学医学部附属病院 地域医療研究・教育センター(昭和地区事務部 総務課 地域医療支援係)
学びどころ:群馬で働くという進路を、制度や支援の話とあわせて具体的に考えられる機会です。
当科の見学・実習・進路相談は随時受け付けています
外来やカンファレンスの見学、短期の実習など、希望に応じて日程を調整します。学年や所属は問いません。お問い合わせは腫瘍内科まで。
学びどころ:この記事で紹介しているカンファレンスや検討会は、実際に見に来ていただけます。
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■ ひとことコラム ― dMMR/MSI-High とは何か
今週のニュースと論文に何度も出てきた dMMR と MSI-High は、同じ現象を別の角度から見た言葉です。順を追ってみます。
細胞が分裂するとき、DNA の複製にはどうしても写し間違いが起こります。これを見つけて直す仕組みがミスマッチ修復(mismatch repair, MMR)で、MLH1・MSH2・MSH6・PMS2 といったタンパク質が担っています。この仕組みが働かなくなった状態を、機能欠損(deficient)の d をつけて dMMR と呼びます。免疫染色でこれらのタンパク質が染まらないことで判定されます。
修復が効かないと、同じ短い配列が繰り返している領域(マイクロサテライト)で、繰り返しの回数がずれた変異が溜まっていきます。この「ずれ」が高い頻度で見られる状態が、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)です。つまり dMMR は原因側の呼び名、MSI-High は結果側の呼び名で、実務上はほぼ同じ集団を指します。
ここからが面白いところです。変異が溜まると、がん細胞は本来の体にはないアミノ酸配列(ネオアンチゲン)を多く作るようになります。免疫の側から見れば「見慣れない目印」が増えるということで、そのぶん異物として認識されやすくなります。免疫チェックポイント阻害薬は、この認識にブレーキがかかっている状態を外す薬ですから、目印が多い dMMR/MSI-High のがんでは効果が期待しやすい。これが、今週紹介した ATOMIC 試験が dMMR の患者さんに絞って行われた理由です。
dMMR/MSI-High は大腸がんの一部にみられ、遺伝性のリンチ症候群と関係することもあるため、判明した場合には遺伝カウンセリングにつなぐ流れも用意されています。検査そのものは、免疫染色や MSI 検査、がん遺伝子パネル検査の一部として、すでに日常診療のなかで行われています。一つの検査結果が、薬の選択にも、ご家族の健康にもつながっていく。腫瘍内科の仕事の広がりが見えるところだと思います。
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群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科/2026-08-18 作成
※ 掲載内容・出典は作成時点の情報に基づきます。


