今週の腫瘍内科
【NEW】今週の腫瘍内科(9/28-10/4)
更新日:2026/10/08
今週の腫瘍内科(2026年10月第1週/9月28日〜10月4日)
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科
腫瘍内科に関心のある医学生・研修医の方へ。当科の一週間と、がん薬物療法をめぐる動きを毎週お伝えします。
今週は、9月24日に米国で承認された腎細胞がんの飲み薬の組み合わせ(日本は申請中)を取り上げます。「がんが進むまでの期間は延びたが、生存期間には有意な差が出なかった」結果をどう読むかを、腎細胞がんと「酸素センサー」の関係とあわせて見ていきます。
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■ 今週の当科から
・がんゲノム医療のエキスパートパネル
がん遺伝子パネル検査の結果をもとに、腫瘍内科・病理・遺伝の専門家などが集まって治療の選択肢を検討するエキスパートパネルが開かれ、当科も参加しました。前の週に行う下読み会で確かめた内容を踏まえて、一例ずつ結論をまとめていきます。
学びどころ:パネル検査の報告書は、見つかった遺伝子の変化を並べた一覧にすぎません。それぞれの変化に意味があるのか、使える薬や臨床試験があるのかを、専門の違う人たちで話し合って初めて、患者さんに返せる「答え」になります。
・臨床研究の計画を、院内の審査委員会で説明
当科が計画している臨床研究について、院内の審査委員会で目的や方法を説明しました。委員会には医療以外の分野の委員も加わっているため、専門用語に頼らない説明が求められます。
学びどころ:臨床研究は、患者さんの協力があって初めて成り立ちます。研究の意義や、参加される方の権利と個人情報をどう守るかを第三者に説明し、認めてもらう手続きは、研究の出発点です。専門外の人にわかる言葉で説明することは、自分の計画を見直す機会にもなります。
・内科グランドカンファレンス(M&M カンファレンス)
内科の各診療科が集まるグランドカンファレンスに参加しました。今回は、経過が思わしくなかった症例を振り返り、次に生かせる点を全員で考える M&M(Morbidity & Mortality)カンファレンスの形式でした。
学びどころ:がん薬物療法を受ける患者さんは、腎臓・心臓・感染症など、内科のあらゆる問題を抱えることがあります。専門の違う内科医が同じ場で一つの経過を振り返る機会は、腫瘍内科医にとっても、内科医としての土台を広げる場になります。
※ 個々の患者さん・症例に関する情報は含みません。当科の活動を一般化してご紹介しています。
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■ 今週の腫瘍内科ニュース
※ 対象週(9月28日〜10月4日)に、国内で腫瘍領域の新たな薬事承認・薬価収載はありませんでした(PMDA の承認品目一覧で確認できた直近の承認日は9月16日)。今週は米国での承認を取り上げます。
・腎細胞がんに、HIF-2α 阻害薬ベルズチファンとレンバチニブの併用 ― 米国で承認〔米国FDA承認/日本は承認申請中〕
2026年9月24日、米国食品医薬品局(FDA)は、ベルズチファン(販売名 ウェリレグ)とレンバチニブ(販売名 レンビマ)の併用療法を承認しました。対象は、進行した腎細胞がん(淡明細胞の成分をもつもの)の成人で、免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1 阻害薬)による治療を受けたあとの方です。用法は、レンバチニブ20mgとベルズチファン120mgをいずれも1日1回内服します。国内では9月28日に、レンバチニブの製造販売元であるエーザイがこの承認を発表しています。
根拠となったのは、カボザンチニブと比べた第Ⅲ相の LITESPARK-011 試験(747例)です。がんが進行するまでの期間(無増悪生存期間)と奏効率は併用療法が上回り、全生存期間は最終解析でも統計学的に有意な差を示しませんでした〔FDA発表〕。詳しい数値は「今週の一報」で紹介します。注意すべき副作用として、ベルズチファンでは胎児への影響(米国添付文書の枠囲み警告)、貧血、低酸素が、併用では心機能障害が挙げられています。
日本では、ベルズチファンはすでに「がん化学療法後に増悪した根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」と「フォン・ヒッペル・リンドウ病関連腫瘍」に対して単剤で承認されています。レンバチニブとの併用については、2026年3月27日にエーザイと MSD が国内で用法・用量の追加を申請したと発表しており、作成時点では国内承認の公表は確認できていません。
学びどころ:腎細胞がんでは、免疫チェックポイント阻害薬を含む治療が一次治療の中心になり、「免疫療法のあと、次に何を使うか」が大きな課題になっています。この組み合わせの考え方は「ひとことコラム」で紹介します。
出典:U.S. Food and Drug Administration「FDA approves belzutifan in combination with lenvatinib for advanced renal cell carcinoma with a clear cell component」(2026年9月24日) / エーザイ株式会社 ニュースリリース(2026年9月28日) / MSD株式会社 ニュースリリース「「レンビマ®」(レンバチニブ)について、日本において、がん化学療法後に増悪した腎細胞がんを対象に「ウェリレグ®」(ベルズチファン)との併用療法に係る用法・用量を追加申請」(2026年3月27日)
・免疫チェックポイント阻害薬の「重大な副作用」に、ぶどう膜炎などが追加されました
厚生労働省の「医薬品・医療機器等安全性情報 No.432」(2026年9月)が、10月2日に日本臨床腫瘍学会のお知らせ欄でも周知されました。8月25日に改訂が指示された添付文書の「重大な副作用」のうち、免疫チェックポイント阻害薬に関わるものとして、次の項目が新たに加わっています。
・ぶどう膜炎:アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、トレメリムマブ(眼の異常の有無を定期的に確認し、異常があれば速やかに受診するよう患者さんに伝えることも、注意事項に加わりました)
・血球貪食性リンパ組織球症:チスレリズマブ、レチファンリマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、イピリムマブ、トレメリムマブ
・免疫反応による重度の胃炎・食道炎:ニボルマブ
改訂の根拠となった国内の報告症例(薬との因果関係が否定できないもの)は、薬ごとに0〜6例でした〔実データ〕。
学びどころ:免疫チェックポイント阻害薬の副作用(免疫関連有害事象)は、体のどこにでも起こりえます。「目がかすむ」「熱が続く」「飲み込むときにしみる・つかえる」といった訴えの背景に、免疫の副作用が隠れていることがあります。頻度の低いものほど、知っていなければ気づけません。当科では、医師・看護師・薬剤師が連携して、こうした副作用の早期発見と対応にあたっています。
出典:厚生労働省 医薬局「医薬品・医療機器等安全性情報 No.432」(令和8年〔2026年〕9月)
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■ 今週の一報(注目論文)〔腎細胞がん/分子標的治療〕
免疫療法のあとの腎細胞がんで、ベルズチファン+レンバチニブをカボザンチニブと比べた第Ⅲ相試験(LITESPARK-011)
Lancet. 2026;408(10557):808–820./第Ⅲ相・非盲検・ランダム化比較試験(NCT04586231)
・25か国184施設で、抗 PD-1/PD-L1 抗体による治療後に進行した淡明細胞型腎細胞がん747例を、ベルズチファン120mg+レンバチニブ20mg(371例)と、カボザンチニブ60mg(376例)に1:1で割り付けました。主要評価項目は、無増悪生存期間(独立した中央判定)と全生存期間の2つです。著者には、九州大学の研究者も含まれています。
・第2回中間解析(追跡期間中央値29.0か月)で、無増悪生存期間の中央値は14.8か月 対 10.7か月(ハザード比 0.70、95%CI 0.59〜0.84、片側 p<0.0001)と、併用療法で有意に延長しました〔論文報告値〕。
・全生存期間の中央値は34.9か月 対 27.6か月(ハザード比 0.85、95%CI 0.68〜1.05、片側 p=0.061)で、統計学的に有意な差はありませんでした〔論文報告値〕。
・Grade 3以上の有害事象は84% 対 83%で同程度、最も多かったのはどちらの群も高血圧(31% 対 29%)でした。治療に関連した死亡は、併用群2例、カボザンチニブ群1例でした〔論文報告値〕。
臨床的意義:主要評価項目の一つ(無増悪生存期間)は達成し、もう一つ(全生存期間)は有意差に届かなかった試験です。著者らは、全生存期間に有意差がなかったことに触れたうえで、併用療法は「新たな標準治療となりうる(might be)」と結論しています。がんが進むまでの時間が延びることには意味がありますが、それが生存期間の延長にまで結びつくかは別の問いです。二つの評価項目の結果を分けて読む姿勢は、論文を読むうえで大切にしたい習慣です。
出典(PubMed 収載/PMID: 42586114):DOI: 10.1016/S0140-6736(26)01089-5 https://www.google.com/url?q=https://doi.org/10.1016/S0140-6736(26)01089-5&source=gmail&ust=1791497031072000&sa=E (Motzer RJ, et al. Lancet 2026;408(10557):808-820)
関連(ベルズチファンを腎細胞がんの早い段階から使う試みを整理した総説/PMID: 42143718):DOI: 10.1093/oncolo/oyag193 https://www.google.com/url?q=https://doi.org/10.1093/oncolo/oyag193&source=gmail&ust=1791497031072000&sa=E (Beckermann K. Oncologist 2026;31(7))
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■ 学会・セミナー/行事
11/4(水)令和8年度 第1回 群馬県がん診療連携協議会研修会「すべての医療者が知っておきたいアピアランスケア」(ハイブリッド・申込不要)
がん治療に伴う脱毛や皮膚・爪の変化など、外見の変化への支援(アピアランスケア)を、この分野の第一人者から学べる研修会です。県内の医療者向けに企画されたもので、職種や専門を問わず受講できます。医学生の参加可否も含め、オンライン参加の方法は腫瘍内科までお問い合わせください。
・演題:治療とともに「その人らしさ」を支える 〜すべての医療者が知っておきたいアピアランスケア〜
・演者:藤間 勝子 先生(国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター長)
・開会挨拶:高張 大亮 教授(群馬大学 腫瘍内科学分野/腫瘍センター長)
・日時:2026年11月4日(水)18:00〜19:00
・会場:群馬大学医学部 臨床大学院講堂(会場参加)+オンライン(Zoom)のハイブリッド開催
・対象:職種・専門を問わずすべての医療従事者(特にがん医療に従事する医師)。申込不要
・主催:群馬県がん診療連携協議会
学びどころ:抗がん薬の副作用は、命に関わるものだけではありません。外見の変化は、仕事や人との関わりを続けるうえで患者さんを大きく悩ませます。薬を選ぶ立場の腫瘍内科医こそ、知っておきたい分野です。
11/21(土)中国・四国地区セミナー、11/22(日)Best of ESMO 2026(前号から継続)
引き続き申込みを受け付けています。中国・四国地区セミナーはハイブリッド開催・参加費無料・会員資格不問(研修医の参加も歓迎、登録締切は11月16日)、Best of ESMO 2026 は今年から学生・初期研修医が無料で参加できます(申込時に学生証などのアップロードが必要)。
・中国・四国地区セミナー 参加登録:https://www.google.com/url?q=https://forms.gle/9gQiBqVmjwhmqHci7&source=gmail&ust=1791497031072000&sa=E
・Best of ESMO 2026 申込:https://www.google.com/url?q=https://medicalprime.jp/event/boe2026/&source=gmail&ust=1791497031072000&sa=E
学びどころ:今週の一報のような試験結果の受け止め方を知る機会になります。
当科の見学・実習・進路相談は随時受け付けています
外来やカンファレンスの見学、短期の実習など、希望に応じて日程を調整します。学年や所属は問いません。お問い合わせは腫瘍内科まで。
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■ ひとことコラム ― 腎細胞がんと「酸素センサー」
私たちの細胞は、酸素が足りなくなると、それを感じ取って体を適応させるしくみを持っています。その中心にいるのが HIF(低酸素誘導因子)というたんぱく質です。酸素が足りないと HIF が働き、血管を新しく作らせる VEGF や、赤血球を増やすエリスロポエチンなどの遺伝子のスイッチを入れます。このしくみの解明には、2019年のノーベル生理学・医学賞が贈られました。
酸素が十分にあるとき、HIF を分解へ導く役目を担っているのが VHL というたんぱく質です。淡明細胞型の腎細胞がんでは、多くの場合この VHL の遺伝子が働かなくなっています。すると、酸素が足りていても HIF が分解されずにたまります。細胞は「いつも酸素が足りない」状態と受け取り、血管を作らせる信号を出し続けます。腎細胞がんが血管に富むがんであること、そして VEGF の受容体を抑える薬(レンバチニブやカボザンチニブなど)が効果を示すことは、この性質から説明できます。
ベルズチファンは、HIF の仲間のうち HIF-2α の働きを直接抑える薬です。VEGF 受容体を抑える薬が信号の「下流」を止めるのに対して、ベルズチファンは「上流」で止める。今回の併用は、同じ流れを二か所で抑える組み合わせと言えます。副作用に貧血が挙がるのは、HIF-2α がエリスロポエチンの産生を担っていることから説明できます。低酸素も、HIF-2α が体の酸素への適応に関わることと関係すると考えられています。
副作用の一覧を確認するのと並んで、「この薬は体のどのしくみに触れているのか」を考えてみる。そうすると、初めて出会う薬でも、どんな副作用に気をつければよいか、ある程度の見当がつくようになります。基礎医学で学んだことが、そのまま診療につながる場面の一つです。
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群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科/2026-10-08 作成
※ 掲載内容・出典は作成時点の情報に基づきます。


