今週の腫瘍内科
【NEW】今週の腫瘍内科(9/21~9/27)
更新日:2026/09/30
今週の腫瘍内科(2026年9月第4週/9月21日〜9月27日)
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科
腫瘍内科に関心のある医学生・研修医の方へ。当科の一週間の活動と、がん薬物療法をめぐる世の中の動きを毎週お伝えします。
今週は、9月23日に米国で承認された、FGFR2融合遺伝子をもつ胆管がんの新しい薬(日本では未承認)を取り上げます。同じ遺伝子を狙う薬がすでにあるのに、なぜ新しい薬が作られるのか。その理由を、薬が「効かなくなるしくみ」を調べた研究と一緒に見ていきます。
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■ 今週の当科から
・がんゲノム医療のエキスパートパネル下読み会(がん研有明病院と合同)
がん遺伝子パネル検査の結果を、翌週のエキスパートパネル(多職種で治療方針を検討する会議)にかける前に確かめる「下読み」の会が、がん研有明病院と合同でオンラインで開かれ、当科も参加しました。当院のほか、県内の連携病院から依頼を受けた症例も含めて検討しています。
学びどころ:パネル検査の結果は、見つかった遺伝子の変化をそのまま薬に結びつければよい、というものではありません。その変化に本当に意味があるのか、使える薬や臨床試験があるのかを、専門の違う人たちで一つずつ確かめていきます。今週のニュースで取り上げる FGFR2 融合遺伝子も、こうした場で扱う代表的な変化の一つです。
・消化管から肝胆膵へ ― 外科との化学療法カンファレンス
消化管外科、続いて肝胆膵外科と、手術前後の抗がん薬治療を相談するカンファレンスが開かれ、当科も参加しました。外科の先生方が相談したい内容を持ち寄り、同じ部屋で順番に話し合う形です。
学びどころ:手術と抗がん薬治療をどの順番で、どのくらいの期間組み合わせるかは、外科と腫瘍内科が顔を合わせて決めていきます。診療科の垣根を越えて相談できる関係づくりも、腫瘍内科の大切な仕事です。
・診療ガイドライン作成委員向けの勉強会 ― 文献の「ふるい分け」の方法
当科の医師も作成委員として加わっている、がん治療に伴う外見の変化へのケア(アピアランスケア)の診療ガイドラインで、委員向けの勉強会がオンラインで開かれ、当科も参加しました。系統的レビューで集めた多数の論文を、一次・二次の2段階でふるい分けるためのソフトの使い方を、実際に操作しながら確かめる内容です。
学びどころ:ガイドラインの推奨の裏には、あらかじめ決めた基準で論文を一本ずつ選び出す、地道な作業があります。推奨を読むときに「どんな論文を、どう選んで出した結論か」を意識できるようになると、ガイドラインとの付き合い方が変わります。
・日本臨床腫瘍学会(JSMO2027)への演題登録
9月30日正午の演題締切に向けて、医学生・若手医師が筆頭の演題を、指導医と仕上げて登録しました。
学びどころ:抄録は、限られた字数で「何をして、何がわかったか」を伝える文章です。何度も書き直すうちに、自分の研究で本当に言えることがはっきりしてきます。
※ 個々の患者さん・症例に関する情報は含みません。当科の活動を一般化してご紹介しています。
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■ 今週の腫瘍内科ニュース
※ 対象週(9月21日〜27日)に、国内で腫瘍領域の新たな薬事承認・薬価収載はありませんでした。今週は米国での承認を取り上げます(日本では未承認です)。
・FGFR2 融合遺伝子をもつ胆管がんに、FGFR2 だけを選んで狙う新しい薬 ― 米国で承認(リラフグラチニブ)〔米国FDA承認/日本は未承認〕
2026年9月23日、米国食品医薬品局(FDA)は、リラフグラチニブ(lirafugratinib、米国での販売名 Lyrfigtu)を承認しました。対象は、治療歴のある、切除できない局所進行または転移性の胆管がんのうち、FGFR2 融合遺伝子またはその他の再構成をもつ成人です。用法は70mgを1日1回内服です。優先審査のもとで承認され、ブレークスルーセラピー指定と希少疾病用医薬品の指定も受けていました。日本では未承認で、国内の販売名も決まっていません。
根拠となったのは、多施設共同・非盲検・単群の REFOCUS 試験(NCT04526106)です。FGFR 阻害薬による治療を受けたことがなく、化学療法(または化学療法と免疫療法の併用)を受けたことのある116例で、奏効率は46%(95%CI 36〜55)、奏効が続いた期間の中央値は11.8か月(95%CI 7.5〜13.0)でした〔FDA発表値〕。単群試験のため、既存の薬と直接比べた結果ではありません。注意すべき副作用として、眼の障害、高リン血症と軟部組織の石灰化、胎児への影響が挙げられています。
日本でも、FGFR2 融合遺伝子をもつ胆道がん(日本の承認は胆管がんを含む「胆道がん」が対象)に対しては、すでにペミガチニブとフチバチニブという2つの FGFR 阻害薬が使われています。これらは FGFR1〜3(または1〜4)をまとめて抑える薬です。リラフグラチニブは、FGFR ファミリーのうち FGFR2 だけを強く抑えるように設計されている点が異なります。
学びどころ:FGFR2 融合遺伝子は、がん遺伝子パネル検査で見つかることのある代表的な変化です。同じ標的を狙う薬がすでにあるのに、なぜ新しい薬が作られるのか。その答えは「副作用」と「耐性」にあります。下の「今週の一報」と「ひとことコラム」で、その理由を見ていきます。
出典:U.S. Food and Drug Administration「FDA approves lirafugratinib for previously treated, unresectable, locally advanced or metastatic cholangiocarcinoma」(2026年9月23日)
・抗がん薬の「供給」をめぐるお知らせが相次ぎました
9月に入り、日本臨床腫瘍学会のお知らせ欄に、抗がん薬の供給に関する製造販売元からの案内が続けて掲載されました。
・エンドキサン錠50mg(シクロホスファミド)・注射用イホマイド1g(イホスファミド):限定出荷(9月9日受注分から。解除は2027年1月の見込み)
・タイケルブ錠250mg(ラパチニブ):在庫がなくなり次第、供給を一時停止(再開時期は未定)
・ミリプラ動注用70mg(ミリプラチン)・ミリプラ用懸濁用液4mL:販売中止の予定(出荷終了は2029年3月頃の見込み)
学びどころ:長く使われてきた薬が、手に入りにくくなることもあります。「使える薬がある」ことは当たり前ではなく、供給が限られたときには薬剤部と相談しながら治療を組み立てていきます。
出典:塩野義製薬株式会社「アルキル化剤「エンドキサン錠50㎎」、抗悪性腫瘍剤「注射用イホマイド1g」限定出荷のお知らせ」(2026年9月) / ノバルティス ファーマ株式会社「抗悪性腫瘍剤「タイケルブ錠 250mg」供給に関するお詫び」(2026年9月) / 住友ファーマ株式会社「販売中止予定のご案内(ミリプラ動注用70mg/ミリプラ用懸濁用液4mL)」(2026年9月作成)
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■ 今週の一報(注目論文)〔胆道がん/がんゲノム医療〕
FGFR2 だけを狙う薬にも、がんは「耐性」で応える ― 血液中の腫瘍 DNA で耐性のしくみを調べた研究
Ann Oncol. 2026;37(6):798–812./REFOCUS 試験(NCT04526106)で治療を受けた患者さんの血液検体を用いた解析
・承認の根拠となった REFOCUS 試験の主な結果は、作成時点では論文として確認できませんでした。そこで今回は、同じ試験の参加者の血液を調べ、「薬が効かなくなるとき何が起きているか」を明らかにした研究を紹介します。
・リラフグラチニブで治療を受けた28例(FGFR 阻害薬の治療歴なし16例、既存の FGFR 阻害薬が効かなくなったあと12例)の血液中の腫瘍 DNA(ctDNA)を、遺伝子パネルで解析しました。
・FGFR 阻害薬の治療歴がない16例では、FGFR2 のキナーゼ領域(薬が結合する部分)に複数の新たな変異が生じる例が8例、別の増殖シグナルの経路(RTK-MAPK 経路)が働く変化が生じる例が9例みられました〔論文報告値〕。
・既存の FGFR 阻害薬でよくみられる耐性変異は少なく、別の場所の変異が多いなど、耐性の起こり方は既存の薬と異なっていました。
・一方で、既存の FGFR 阻害薬が効かなくなったあとの患者さんでも効果がみられ、血液中では、いくつかの耐性変異が消えていく一方で、別の変異が残ったり新たに現れたりする様子が捉えられています。
臨床的意義:新しい薬は、古い薬の弱点(副作用や耐性)を補うように設計されますが、がんはそれに対してまた別の形で耐性を身につけます。この研究は、耐性の中身が薬ごとに違うことを示し、「どの順番で薬を使うか」を耐性変異の種類から考える手がかりになります。関連する研究では、リラフグラチニブとフチバチニブで効きにくくなる変異が異なり、両者を順番に使う可能性も検討されています。血液を使った遺伝子パネル検査は日本でも保険診療で使われていますが、治療中に繰り返し調べて耐性の変化を追いかける使い方は、まだ研究の段階です。
出典(PubMed 収載/PMID: 41571046):DOI: 10.1016/j.annonc.2026.01.004 (Ellis H, et al. Ann Oncol 2026)
関連(リラフグラチニブとフチバチニブの耐性変異の違いと、治療の順番の検討/PMID: 41632446):DOI: 10.1158/1078-0432.CCR-25-4390 (Facchinetti F, et al. Clin Cancer Res 2026;32(8):1574-1587)
関連(リラフグラチニブ〔RLY-4008〕の開発と FGFR2 選択性/PMID: 37270847):DOI: 10.1158/2159-8290.CD-23-0475 (Subbiah V, et al. Cancer Discov 2023;13(9):2012-2031)
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■ 学会・セミナー/行事
10/10(土)第14回 日本臨床腫瘍学会 近畿地区セミナー(前号から継続・ハイブリッド・無料)
がんゲノムプロファイリング(CGP)検査、微小残存病変(MRD)、専門医機構認定のがん薬物療法専門医制度を取り上げるセミナーです。対象は「医療従事者ならどなたでも」とされ、学会からの案内でも、研修医やコメディカルスタッフの参加を歓迎すると書かれています。Web配信があるので、群馬からも参加できます。
・日時:2026年10月10日(土)14:00〜16:30
・会場:大阪市立総合医療センター 都島センタービル1階 大会議室A(現地定員50名)+Web配信
・対象:医療従事者ならどなたでも(JSMO会員資格不問。研修医の参加も歓迎)
・参加費:無料(参加登録フォームから事前登録。登録締切 2026年10月9日〔金〕)
・主催:公益社団法人日本臨床腫瘍学会
・プログラム:https://www.google.com/url?q=https://www.jsmo.or.jp/wp/wp-content/uploads/dfca6d67d1b566f3909d724281967ebd.pdf&source=gmail&ust=1790805577533000&sa=E
・参加登録:https://www.google.com/url?q=https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_SwX_gQcXStOVtgIxnQ230g&source=gmail&ust=1790805577533000&sa=E
学びどころ:今週のニュースで取り上げた FGFR2 のように、遺伝子の変化から薬を選ぶ場面は年々増えています。ゲノム検査や血液で調べるがんの痕跡(MRD)の話は、その流れを整理するのに役立つと思います。
11/21(土)中国・四国地区セミナー、11/22(日)Best of ESMO 2026(前号から継続)
引き続き申込みを受け付けています。中国・四国地区セミナーはハイブリッド開催・参加費無料・会員資格不問(研修医の参加も歓迎、登録締切は11月16日)、Best of ESMO 2026 は今年から学生・初期研修医が無料で参加できます(申込時に学生証などのアップロードが必要)。
・中国・四国地区セミナー 参加登録:https://www.google.com/url?q=https://forms.gle/9gQiBqVmjwhmqHci7&source=gmail&ust=1790805577533000&sa=E
・Best of ESMO 2026 申込:https://www.google.com/url?q=https://medicalprime.jp/event/boe2026/&source=gmail&ust=1790805577533000&sa=E
学びどころ:秋から冬にかけて、学生・研修医が参加しやすい学会の企画が続きます。気になるものを一つ選んで、予定に入れておくとよいと思います。
当科の見学・実習・進路相談は随時受け付けています
外来やカンファレンスの見学、短期の実習など、希望に応じて日程を調整します。学年や所属は問いません。お問い合わせは腫瘍内科まで。
学びどころ:この記事で紹介しているカンファレンスや下読み会の雰囲気は、見学で実際に感じていただけます。
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■ ひとことコラム ― なぜ「FGFR2 だけ」を狙う薬が必要なのか
FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)には、FGFR1 から FGFR4 までの4つの仲間がいます。胆管がんで問題になるのは、このうち FGFR2 の遺伝子がほかの遺伝子とつながってしまう「融合」で、これががん細胞の増殖のスイッチを入れっぱなしにします。
これまでの FGFR 阻害薬は、FGFR2 以外の仲間(FGFR1〜3、または1〜4)もまとめて抑える薬でした。がんの原因である FGFR2 を抑えるのは狙いどおりですが、ほかの仲間まで抑えると、それぞれの持ち場で副作用が出ます。たとえば FGFR1 はリンの代謝に関わっているため、これを抑えると血液中のリンが上がります(高リン血症)。FGFR4 を抑えると下痢が起こりやすくなります。副作用のために薬を減らしたり休んだりすると、FGFR2 を十分に抑えきれなくなる、という悩みがありました。
もう一つの悩みが耐性です。薬を使い続けると、FGFR2 の薬が結合する部分に変異が生じ、薬がはまらなくなります。薬の「鍵穴」の形が変わってしまうイメージです。
リラフグラチニブは、FGFR2 だけに強く結びつくよう設計され、試験管内の実験では FGFR1 より250倍以上、FGFR4 より5,000倍以上 FGFR2 を選んで抑えると報告されています〔論文報告値〕。ただし、今回の米国での承認でも高リン血症は注意すべき副作用に挙げられており、「選択性が高いから副作用がない」わけではありません。そして「今週の一報」で見たとおり、がんは新しい薬に対しても、別の形で耐性を身につけていきます。
副作用を減らす工夫と、耐性を先回りする工夫。分子標的薬の開発は、この二つの課題を行き来しながら進んでいます。パネル検査の報告書に FGFR2 の文字を見つけたら、その先にこうした薬の系譜があることを思い出してもらえるとうれしいです。
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群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科/2026-09-30 作成
※ 掲載内容・出典は作成時点の情報に基づきます。


