お知らせ
【NEW】今週の腫瘍内科(9/7-9/13)
更新日:2026/09/18
今週の腫瘍内科(2026年9月第2週/9月7日〜9月13日)
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科
腫瘍内科に関心のある医学生・研修医の方へ。当科の一週間の活動と、がん薬物療法をめぐる世の中の動き(論文・学会・制度)を、毎週まとめてお伝えします。
今週の当科は、学生の実習や学会発表の準備など、教育に関わる仕事が多い一週間でした。世の中の動きとしては、抗体に抗がん薬を結合させた「抗体薬物複合体(ADC)」が、卵巣がんで新しく承認された話題を取り上げます。学生・研修医が無料で参加できる学会の企画もいくつか始まっていますので、最後の告知欄もご覧ください。
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■ 今週の当科から
・がんゲノム医療 エキスパートパネルの下読み(プレEP)
がん遺伝子パネル検査の結果を検討するエキスパートパネルは隔週で開いていて、その前の週に、連携する施設とオンラインで下読みをします。今回の下読みでは、検討予定の症例がすべて「迅速エキスパートパネル」の手続きで済むことになり、翌週に予定していた本番の会議は開かないことになりました。あわせて、連携先の施設から来年1〜6月の開催日程も届き、症例の資料をいつまでに出すかという締切も含めて確定しました。
学びどころ:会議を「開かない」と決めるのも、手続きがきちんと回っているからこそです。検査結果が出てから治療の相談に届くまでの時間をどう短くするか。その工夫が、日程表や締切の一つひとつに組み込まれています。
・臨床実習の評価が、10月からオンラインの仕組みに移ります
医学科の臨床実習で、学生への評価やフィードバックを行う新しいオンラインのプラットフォームが10月から使われる予定です。これに向けて、実習を担当する教員向けの操作説明会があり、試験用の画面を見ながら使い方の説明を受けました。当科からも、学生の指導や評価に関わる教員を登録します。
学びどころ:実習の評価は、最後に点数をつけるだけのものではなく、途中で「どこがよくて、次に何を伸ばすか」を返すためのものです。仕組みが変わるこの機会に、当科でもフィードバックを返す時機を見直していきます。
・医学生が筆頭の学会演題 ― 抄録を何度も書き直しました
来年3月の日本臨床腫瘍学会学術集会に向けて、医学生が筆頭演者となる演題の抄録を準備しました。学生が書いた案に、指導医と教授がそれぞれコメントを返し、学生が直す、というやりとりを締切前の数日間で何度か重ねています。演題の登録作業も学生自身が進めました。
学びどころ:抄録で一番難しいのは「結論に何を書くか」です。言いたいことではなく、結果から言えることまでにとどめる。その線引きを指導医と一緒に考える経験は、論文を読む力にもそのままつながります。
・当科関連のホームページ情報を更新しました
腫瘍内科・腫瘍センター・がんゲノム医療センターの病院ホームページについて、内容の更新が完了しました。がんゲノム医療センターの実績の表なども新しくしています。
学びどころ:見学を考えている方は、来る前に一度ご覧ください。どんな外来があり、どんな検査をどれくらい行っているかを知っておくと、当日の見学で見えるものが増えます。
※ 個々の患者さん・症例に関する情報は含みません。当科の活動を一般化してご紹介しています。
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■ 今週の腫瘍内科ニュース
・エラヒア点滴静注100mg(ミルベツキシマブ ソラブタンシン)、FRα陽性の再発卵巣癌で承認されました〔薬事承認〕
2026年9月16日、ミルベツキシマブ ソラブタンシン(販売名:エラヒア点滴静注100mg)が、「葉酸受容体α陽性の白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣癌」を効能・効果として承認されました。同日付で厚生労働省から「使用に当たっての留意事項」が通知されています。
この薬は、卵巣がんの細胞に多く出ていることがある葉酸受容体α(FRα)に結合する抗体に、細胞の分裂を止める薬(メイタンシノイド系のDM4)をつないだ「抗体薬物複合体(ADC)」です。抗体が目印を見つけて薬を運ぶので、FRα が陽性であることを確かめてから使います。
留意事項通知では、視力低下を伴う角膜障害を含む眼障害があらわれ、失明に至る可能性があることが特に強調されています。投与開始前に眼科医の診察を受けること、投与中も視力検査や細隙灯顕微鏡検査で定期的に確認すること、人工涙液を1日4回以上使うこと、コンタクトレンズを避けることなどが示されています。重大な副作用の頻度として、角膜症28.8%、角膜炎6.2%、点状角膜炎4.9%が記載されています〔通知記載値〕。
段階についての補足です。今回は薬事承認で、作成時点では薬価基準にはまだ収載されていません。保険診療で使えるようになるのは、薬価収載の後になります。
学びどころ:腫瘍内科の仕事は、薬を選んで終わりではありません。この薬を使うには、眼科と連携する体制づくりが欠かせません。新しい薬が出るたびに、どの診療科とどう組むかを考えるのも腫瘍内科の役割です。根拠となった試験は、下の「今週の一報」で紹介します。
出典:厚生労働省 医薬局医薬品審査管理課・医薬安全対策課「ミルベツキシマブ ソラブタンシン(遺伝子組換え)製剤の使用に当たっての留意事項について」(医薬薬審発0916第7号 / 医薬安発0916第2号、令和8年9月16日)
・同じ9月16日には、小児の脳腫瘍の薬と、卵巣癌の免疫療法の話題も続きました〔薬事承認〕
・オジェンダ錠100mg・ドライシロップ300mg(トボラフェニブ):「BRAF遺伝子変異又は融合遺伝子を有する低悪性度神経膠腫」を効能・効果として、9月16日に承認されました。承認申請の時点で日本人患者への投与経験がないため、日本人での薬物動態試験の結果が出るまでは、安全性確保の体制が整った施設に限って納入されます。15歳以下はおおむね小児がん拠点病院など、16歳以上はがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院や医学部附属病院などが対象施設として挙げられ、医師側にも専門医資格と症例経験、適正使用講習の修了が求められています。
・キイトルーダ点滴静注100mg(ペムブロリズマブ):2026年9月に「白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣癌」の効能が追加され、9月16日付で最適使用推進ガイドライン(卵巣癌)が発出されました。
学びどころ:同じ日に、同じ「白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣癌」で、ADC と免疫チェックポイント阻害薬という仕組みの異なる2つの選択肢が加わりました。どちらをどの順番で使うかは、FRα や PD-L1 といった目印を調べて考えていくことになります。遺伝子の変化で使える薬が決まるトボラフェニブも含め、治療を選ぶ前に「何を調べるか」がますます大事になっています。
出典:厚生労働省「トボラフェニブ製剤の使用に当たっての留意事項について」(医薬薬審発0916第6号 / 医薬安発0916第1号、令和8年9月16日) / 厚生労働省「ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(卵巣癌)について」(医薬薬審発0916第3号、令和8年9月16日)/ MSD株式会社「キイトルーダ点滴静注100mg 適正使用のお願い(白金系抗悪性腫瘍剤抵抗性の再発卵巣癌)」(2026年9月)
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■ 今週の一報(注目論文)〔卵巣がん/ADC〕
目印を持つがんだけに薬を届ける ― 第Ⅲ相 MIRASOL 試験
N Engl J Med. 2023;389(23):2162–2174./第Ⅲ相・国際共同・非盲検無作為化比較試験(MIRASOL、ClinicalTrials.gov NCT04209855)
・対象は、白金系抗がん薬に抵抗性となった高異型度漿液性卵巣がんで、前治療が1〜3レジメン、かつ腫瘍の FRα 発現が高い方です。「高い」の基準は、がん細胞の75%以上が2+以上の強さで染まることでした〔論文報告値〕。
・453例を、ミルベツキシマブ ソラブタンシン群227例(調整理想体重あたり6mg/kg を3週ごと)と、担当医が選ぶ化学療法群226例(パクリタキセル、リポソーム化ドキソルビシン、トポテカンのいずれか)に1対1で割り付けました。主要評価項目は担当医判定の無増悪生存期間です。
・無増悪生存期間の中央値は5.62か月(95%CI 4.34〜5.95)対3.98か月(95%CI 2.86〜4.47)、P<0.001。奏効割合は42.3%対15.9%(オッズ比3.81、95%CI 2.44〜5.94)でした〔論文報告値〕。
・全生存期間の中央値は16.46か月対12.75か月で、死亡のハザード比は0.67(95%CI 0.50〜0.89、P=0.005)と、全生存期間でも有意な差が示されました〔論文報告値〕。
・治療期間中の Grade 3以上の有害事象は41.7%対54.1%、重篤な有害事象は23.9%対32.9%、有害事象による中止は9.2%対15.9%で、いずれも化学療法群より少ない結果でした〔論文報告値〕。
臨床的意義:白金系抗がん薬が効かなくなった卵巣がんは、次に使う化学療法の効果が限られ、長く治療の難しい状況が続いてきました。その中で、全生存期間の延長まで示した点がこの試験の重みです。一方で、効果が示されたのは FRα が高く発現した方に限られます。また、全体の有害事象は少なくても、眼の副作用という化学療法とは質の違う注意点が加わります。数字だけでなく「誰に」「どんな備えで」使うかまで含めて読むのが、この論文の正しい読み方だと思います。
出典(PubMed 収載/PMID: 38055253):DOI: 10.1056/NEJMoa2309169(Moore KN, et al. N Engl J Med 2023)
関連(日本の研究者による総説/PMID: 42287581):DOI: 10.1007/s10147-026-03090-3(Mabuchi S, et al. Int J Clin Oncol 2026)
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■ 学会・セミナー/行事
〜9/24(木)日本臨床腫瘍学会「学生・研修医ワーキンググループ」委員の募集
日本臨床腫瘍学会が、腫瘍内科に関心のある学生・研修医のネットワークづくりを目的に設けているワーキンググループの委員を募集しています。今年度は、学生・研修医と現役の腫瘍内科医を対象にしたアンケート調査を企画・実施・解析し、2027年3月の学術集会(JSMO2027)での発表を目指すとされています。
・立候補期間:2026年9月11日(金)〜9月24日(木)
・応募資格:日本臨床腫瘍学会の会員(会員区分は問わない)で、応募時点で医学部生または初期研修医
・応募方法:学会のお知らせページにある専用フォームから登録(委員は選考のうえ決定)
・主催:公益社団法人日本臨床腫瘍学会 専門医部会 学生・研修医ワーキンググループ
・詳細:https://www.google.com/url?q=https://www.jsmo.or.jp/post-12371/&source=gmail&ust=1789700562593000&sa=E
学びどころ:調査の企画から学会発表まで、全国の同世代と一緒に一つの研究をやりとげる経験は、大学の中だけではなかなか得られません。締切が近いので、関心のある方は早めに確認してください。
11/21(土)日本臨床腫瘍学会 2026年度 中国・四国地区セミナー
会場とWeb配信のハイブリッドで開かれるセミナーです。参加費は無料、学会の会員資格は問われず、研修医の参加も歓迎すると案内されています。Web配信があるので、群馬からも参加できます。
・日時:2026年11月21日(土)14:30〜17:20
・会場:新山口駅前 YIC studio 2号館+Web配信
・対象:がん薬物療法専門医、専門医を目指す医師、看護師・薬剤師などの医療従事者(JSMO会員資格不問。研修医の参加も歓迎)
・参加費:無料(参加登録フォームから申込み、登録締切は11月16日)
・主催:公益社団法人日本臨床腫瘍学会
・プログラム:https://www.google.com/url?q=https://www.jsmo.or.jp/wp/wp-content/uploads/e5e7f38f5709ba241070e7521041c7d3.pdf&source=gmail&ust=1789700562593000&sa=E
・参加登録:https://www.google.com/url?q=https://forms.gle/9gQiBqVmjwhmqHci7&source=gmail&ust=1789700562593000&sa=E
学びどころ:専門医を目指す医師向けのセミナーは、腫瘍内科医が普段どんな論点で議論しているかを知るのにちょうどよい場です。
11/22(日)Best of ESMO 2026 ― 今年から学生・初期研修医は無料
欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の年次総会で発表された注目演題から、6領域・約30演題を選び、各領域の専門家が日本語で解説するオンラインのプログラムです。今年から、学生・初期研修医(会員資格不問)と、日本臨床腫瘍学会会員の後期研修医を対象にした無料の参加枠が設けられました。ライブ配信のあと、約4か月間オンデマンドで視聴できます。
・ライブ配信:2026年11月22日(日)9:00〜16:30(予定)
・オンデマンド:2026年12月7日(月)〜2027年4月7日(水)
・参加費:学生・初期研修医:無料(申込時に学生証などのアップロードが必要)/後期研修医:無料(JSMO会員に限る)/会員 13,200円/非会員 33,000円
・申込:https://www.google.com/url?q=https://medicalprime.jp/event/boe2026/&source=gmail&ust=1789700562593000&sa=E(事前参加登録は2027年4月7日12:00まで)
・主催:公益社団法人日本臨床腫瘍学会(企画:教育委員会 Best of ESMO 部会)
学びどころ:世界の標準治療が変わる瞬間を、日本語の解説つきで追える機会です。全部を理解しようとせず、自分が実習で出会ったがん種の演題を一つ選んで見てみるだけでも、得るものは多いと思います。
当科の見学・実習・進路相談は随時受け付けています
外来やカンファレンスの見学、短期の実習など、希望に応じて日程を調整します。学年や所属は問いません。お問い合わせは腫瘍内科まで。
学びどころ:この記事で紹介しているカンファレンスや検討会は、実際に見に来ていただけます。
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■ ひとことコラム ― 抗体薬物複合体(ADC)は、なぜ目に副作用が出るのか
抗体薬物複合体(ADC)は、「がん細胞の目印に結合する抗体」と「強い抗がん薬」を、リンカーと呼ばれる部分でつないだ薬です。抗体ががん細胞の表面の目印に結合し、細胞の中に取り込まれてから抗がん薬が外れて働く。単独で点滴すると全身に強い副作用が出てしまう薬を、がん細胞に集めて使おう、という発想です。今回の MIRASOL 試験で、化学療法より Grade 3以上の有害事象が少なかったのは、この設計の考え方と合っています。
それなら、なぜ目に副作用が出るのでしょうか。ADC の眼の副作用は、抗体が目印に結合したためというより、角膜の細胞が目印とは関係なく薬を取り込むといった、標的外の作用によると考えられています。実際、細胞分裂を止める種類の抗がん薬を載せた ADC では、ほかの製剤でも眼の副作用が知られています。つまり、副作用の出方は「抗体が何に結合するか」だけでなく、「何を載せているか」にも左右されます。
ここから学べるのは、ADC を理解するには3つの部品を分けて見る、ということです。どの目印を狙う抗体か(誰に効くか)、どんな抗がん薬を載せているか(どんな副作用が出やすいか)、リンカーがどこで外れるか(周りの細胞にも効くか)。新しい ADC の名前が出てきたら、この3つを確かめる癖をつけておくと、覚える量はぐっと減ります。
そしてもう一つ。眼科の診察を投与前から組み込む、患者さんに人工涙液の使い方を説明する、見え方の変化にすぐ気づけるようにする。こうした準備は、医師一人ではできません。眼科、薬剤師、看護師と一緒に体制を作って、はじめて新しい薬を安全に届けられます。腫瘍内科が「チームで治療する科」と言われる理由の一つが、ここにあります。
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群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科/2026-09-17 作成
※ 掲載内容・出典は作成時点の情報に基づきます。


