今週の腫瘍内科
今週の腫瘍内科(8/3-8/9)
更新日:2026/08/12
今週の腫瘍内科(2026年8月第1週/8月3日〜8月9日)
群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科
腫瘍内科に関心のある医学生・研修医の方へ。当科の一週間の活動と、がん薬物療法をめぐる世の中の動き(論文・学会・制度)を、毎週まとめてお伝えします。
今週は、ウイルスでがんを治療するという新しい薬と、その試験結果の読み方を一緒に見ていきます。
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■ 今週の当科から
・消化管・肝胆膵の化学療法カンファレンス
外科と腫瘍内科が同じ場に集まり、薬物療法の相談内容を続けて検討する定例のカンファレンスです。消化管外科の相談が終わったあと、同じ部屋でそのまま肝胆膵外科の相談に移ります。
学びどころ:同じ「消化器がん」でも、臓器が変われば治療の組み立ても変わります。診療科の壁をまたいで方針を練る場面に触れられます。
・化学療法プロトコール審査委員会(臨時の事前審査)
院内で新しい抗がん剤の治療計画(レジメン)を使えるようにするには、薬剤・投与量・投与間隔・支持療法などを委員会で審査し、登録する手続きが必要です。今週は新規申請について臨時の事前審査を行いました。
学びどころ:「この患者さんにこの治療を」と決める前段に、病院として治療の型を承認する仕組みがあります。安全な薬物療法を支える土台の部分です。
・外科診療センターの M&M カンファレンス
診療の経過を多職種・多診療科で振り返り、次の診療に活かすための会議です。個々の経過を責める場ではなく、判断の分かれ目を共有し、チームの学びに変えることを目的としています。
学びどころ:うまくいかなかった経験をどう扱うかに、その施設の力量が表れます。振り返りを言葉にする訓練は、どの科に進んでも役に立ちます。
・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)研修会
院内のセンター主催で、心不全の治療とACPをテーマにした研修会が開かれ、当科からも参加しました。「いきかたノート」という記録用ツールの活用例が紹介されました。
学びどころ:これからの過ごし方を患者さんと一緒に考えていく作業は、がん医療でも中心にあります。他の領域の実践から学べることは多くあります。
・臨床実習前OSCEの評価者説明会
医学科の学生が臨床実習に出る前に受ける実技試験(OSCE)について、評価にあたる教員向けの説明会が開かれました。当科の教員も評価者として参加します。
学びどころ:試験を受ける側からは見えにくいところですが、評価する側も基準をそろえる訓練を受けています。教育もまた大学病院の仕事のひとつです。
※ 個々の患者さん・症例に関する情報は含みません。当科の活動を一般化してご紹介しています。
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■ 今週の腫瘍内科ニュース
・テロメライシン注(スラタデノツレブ)、食道がんを対象に保険適用へ〔保険適用〕
がん細胞のなかで増えるように設計されたウイルスを、内視鏡で腫瘍に直接注射する「腫瘍溶解ウイルス」の製剤です。2026年8月5日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で保険適用が了承され、薬価基準への収載予定日は2026年8月13日とされました。製造販売承認はこれに先立つ2026年6月8日です〔中医協資料記載〕。
対象は「根治切除および化学放射線療法の適応とならない食道癌」。放射線療法と併用し、1回1 mL を約2週間隔で計3回、上部消化管内視鏡下に腫瘍内へ投与します。薬価は2 mL 1瓶 3,102,489円(1クール 9,307,467円)で、類似薬効比較方式(Ⅰ)により算定され、有用性加算(Ⅱ)10%・市場性加算(Ⅰ)10%・先駆加算10%が適用されました。ピーク時(10年度)の予測は241人・22億円とされています〔中医協資料記載値〕。
学びどころ:薬でも手術でも放射線でもない、第4の柱と呼ばれる治療がまた一つ実際に使えるようになります。がん細胞でだけ増えるようウイルスを設計するという発想そのものが、基礎研究と臨床のつながりを教えてくれます。
出典:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第654回・2026年8月5日)議事次第 /総-3 再生医療等製品の保険適用について(PDF)
・同時に「最適使用推進ガイドライン」も策定 ― どこで、誰が使えるか
新しい作用の仕組みをもつ製品では、有効性・安全性の情報が積み上がるまでの間、使用する施設と医師に要件が設けられることがあります。テロメライシンについても、同じ8月5日の総会でガイドラインが示されました。施設はがん診療連携拠点病院・特定機能病院・都道府県が指定するがん診療連携病院などのいずれかに該当し、かつ食道癌への放射線療法が実施可能であること。治療責任者となる医師には、初期研修修了後に5年以上のがん治療の臨床研修(うち2年以上はがん薬物療法を主とした臨床腫瘍学)を行っているなどの経歴に加え、上部消化管内視鏡診療の知識・技術、製造販売業者による講習の受講、カルタヘナ法(遺伝子組換え生物の取扱いに関する法律)の理解が求められています。留意事項通知の発出日は2026年8月12日、適用日は8月13日です。
学びどころ:「承認された薬=どの病院でもすぐ使える薬」ではありません。腫瘍内科医の研修年数が制度の文章のなかに具体的に書き込まれている、という点にも目を留めてみてください。
出典:中医協 総-4-1 最適使用推進ガイドライン(テロメライシン)(PDF) /総-4-2 保険適用上の留意事項について(PDF)
・8月13日には新医薬品13品目も収載予定(腫瘍領域から2品目)
同じ中医協総会では、2026年8月13日に薬価収載予定の新医薬品13品目(10成分)も了承されました。腫瘍領域では、多発性骨髄腫に用いるイサツキシマブの皮下注射製剤サークリサ皮下注1400 mg(新投与経路医薬品)と、大量化学療法後の神経芽腫を対象とするイソトレックスカプセル(イソトレチノイン、新有効成分含有医薬品)が含まれます。
学びどころ:同じ成分でも、点滴から皮下注射へと投与経路が変わることは、通院時間や外来の回転にそのまま効いてきます。新しい成分だけがニュースではありません。
出典:中医協 総-2-1 医薬品の新規薬価収載について(PDF)
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■ 今週の一報(注目論文)〔食道がん/腫瘍溶解ウイルス〕
標準治療が難しい食道がんに、内視鏡下でウイルスを注射する ― 国内第Ⅰ相試験
Eur J Cancer. 2021;153:98–108./用量漸増第Ⅰ相試験(国内実施)
・OBP-301(テロメライシン)は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)のプロモーターで増殖を制御するよう改変された5型アデノウイルスです。テロメラーゼ活性の高いがん細胞のなかで選択的に増え、細胞を壊します。放射線によるDNA修復を妨げる働きもあり、放射線療法との併用が検討されました。
・手術も化学療法も適応とならないと判断された食道がん13例に、内視鏡下で腫瘍内注射(1日目・18日目・32日目)を行い、4日目から6週間かけて計60 Gyの放射線療法を併用しました。年齢中央値は82歳(範囲53–91歳)でした〔論文報告値〕。
・局所完全奏効が8例、部分奏効が3例で、奏効率は91.7%。臨床的完全奏効率はStage Iで83.3%、Stage II/IIIで60.0%と報告されています。全例に一過性のリンパ球減少がみられ、病理では CD8陽性細胞の著明な浸潤と PD-L1発現の増加が確認されました〔論文報告値〕。
臨床的意義:今回の保険適用の直接の根拠となったのは、この後に国内17施設で実施された第Ⅱ相試験(OBP101JP試験)です。作成時点でPubMedに収載された論文は見当たらないため、数値は下のコラムで厚生労働省の公表資料から引用しています。ここでは、その前段にあたる第Ⅰ相試験を紹介しました。高齢で標準治療が難しい方にどう向き合うかという、日常の外来にきわめて近い問いから出発した研究です。
出典(PubMed 収載/PMID: 34153720):DOI: 10.1016/j.ejca.2021.04.043 (Shirakawa Y, et al. Eur J Cancer 2021)
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■ 学会・セミナー/行事
9/5(土)第15回 日本臨床腫瘍学会 北海道地区セミナー(会場+オンライン)
がん薬物療法専門医部会による地区セミナー。オンライン参加ができ、参加費は無料です。学会の会員でなくても参加できます。
・プログラム:大腸癌薬物療法のストラテジー:基本と最新アップデート/二重特異性抗体の障壁 〜多職種連携で乗り越えるCRS・ICANS〜/がん治療薬による心毒性にはどう対応するか 〜早期発見と治療継続のための連携〜/NET診療のパラダイムシフト:チーム医療が支える放射性リガンド療法
・日時:2026年9月5日(土)13:30–16:30(開場13:15)
・会場:ACU 中研修室1605(札幌市中央区北4条西5丁目 アスティ45 16F)/Zoomウェビナーによるオンライン参加も可(会場定員75名)
・対象・参加費:がん薬物療法に関心のある医師・看護師・薬剤師などの医療従事者(学会員資格は不問)/無料・事前登録制
・主催:日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医部会(共催:地域に貢献する北海道がんプロ養成プラン)
学びどころ:大腸がん・血液がん・心毒性・神経内分泌腫瘍と、腫瘍内科が扱う幅がそのまま並んでいます。オンラインで通しで聴けるので、興味のある演題だけでも構いません。
案内:日本臨床腫瘍学会 プログラム(PDF) /事前登録:https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_eadvI2bkQrmzQ1AQYjMB0Q&source=gmail&ust=1786483926543000&sa=E
9/9(水)令和8年度「医学生・研修医等をサポートするための会」
医学生・研修医等を対象に、将来のキャリア形成や地域医療への理解を深めることを目的に開かれる会です。
・対象:医学生・研修医等
・日時:2026年9月9日(水)13:30–14:50
・会場:群馬大学昭和キャンパス 医学科 臨床大講堂
・主催:群馬大学医学部附属病院 地域医療研究・教育センター(昭和地区事務部 総務課 地域医療支援係)
学びどころ:群馬で働くという進路を、具体的な制度や支援の話とあわせて考えられる機会です。
当科の見学・実習・進路相談は随時受け付けています
外来やカンファレンスの見学、短期の実習など、希望に応じて日程を調整します。学年や所属は問いません。お問い合わせは腫瘍内科まで。
学びどころ:この記事で紹介しているカンファレンスや検討会は、実際に見に来ていただけます。
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■ ひとことコラム ― 主要評価項目を「達成しなかった」試験をどう読むか
今回のテロメライシンの第Ⅱ相試験(OBP101JP試験)は、読み方の練習にちょうどよい題材です。厚生労働省が公表した最適使用推進ガイドラインによれば、この試験は根治切除も化学放射線療法もできない局所進行食道癌(cStage II/III)の37例を対象に、国内17施設で行われました。主要評価項目は中央判定による24週までの局所完全奏効率(L-CR率)で、事前に閾値30.2%が設定されていました。この30.2%という数字は、同じ状況の患者さんに放射線療法だけを行ったときの成績として、日本食道学会の全国登録データ(2009〜2011年登録)から算出されたものです。
結果は、24週までのL-CR率が41.7%(90%信頼区間 27.7–56.7、15/36例)。数字だけを見れば閾値を上回っていますが、信頼区間の下限が27.7%と閾値の30.2%を下回ったため、統計学的な有意差は示されませんでした。つまり主要評価項目は達成されていません。その後に探索的な解析として行われた18か月間を通しての集計では、L-CR率は50.0%(90%信頼区間 35.3–64.7、18/36例)でした〔いずれも厚生労働省資料の記載値〕。
ここで大事なのは、「有意差がつかなかった=効かない」でも、「50%も効いた」でもない、ということです。事前に決めた土俵での判定と、あとから見たときの数字は役割が違います。承認の判断がどのような検討を経たのかは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査報告書に詳しく書かれています。ニュースの見出しだけでなく、閾値がどう置かれたか、信頼区間がどこまで伸びているか、その解析は事前に決められていたのかを確かめる。腫瘍内科の日常は、そういう地道な読み方の積み重ねでできています。
出典:中医協 総-4-1 最適使用推進ガイドライン(テロメライシン)(PDF)
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群馬大学医学部附属病院 腫瘍内科/2026-08-10 作成
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